習志野市茜浜女性殺害事件は2013年に発生した殺人事件で、別件で服役中の楊暁春という男が犯人として逮捕されるも不起訴となり現在も解決していません。この記事では本件の詳細、被害者・広畠かをりさんが襲われた理由、真犯人について紹介していきます。
この記事の目次
習志野市茜浜女性殺害事件の概要
2013年6月24日午前10時40分頃、千葉県習志野市を走る主要道路である千葉県道千葉船橋海浜線脇の緑地帯で女性が倒れているのを、通りがかった清掃員が発見しました。
倒れていたのは習志野市谷津のマンションに住む派遣社員の広畠かをりさん(当時47歳)で、発見時にはすでに首を絞められて殺害されていたとのことです。
また広畠かをりさんの遺体には顔や上半身を中心に複数の痣や打撲痕があり、靴も脱げて着衣に乱れがあったことから、殺害される前に犯人と激しくもみ合ったものと見られました。
千葉県警習志野署は殺人事件として捜査を開始しましたが犯人は見つからず、本件は2014年2月26日から2016年2月25日まで警察庁捜査特別報奨金の対象事件にもなっていました。
事件が大きく動いたのは2016年3月3日。捜査本部は窃盗事件で府中警察に服役していた中国国籍の楊暁春受刑者(ようぎょうしゅん・当時50歳)が、習志野市茜浜女性殺害事件に関与しているとして逮捕に踏み切ったのです。
千葉県警は事件現場周辺の防犯カメラなどから犯人の可能性が高いと見て、窃盗事件での服役を終えて出所するのを待って、楊暁春を逮捕したとされます。
しかし、逮捕から3週間が経過した3月24日に「証拠不十分」として千葉地検は楊暁春を釈放。身柄を東京入国管理局に引き渡しました。
これ以降は有力な情報はなく、現在も習志野市茜浜女性殺害事件は未解決のままになっています。
習志野市茜浜女性殺害事件の詳細① 事件当日の被害者・広畠かをりさん
習志野市茜浜女性殺害事件の被害者、広畠かをりさんが最後に目撃されたのは、遺体が発見される6月23日の昼でした。
この日、広畠さんは住んでいるマンションの行事に参加しており、夜の22時から勤務先の工場に出勤予定でした。
広畠さんの勤務先は船橋市高瀬町にある食品加工工場で、行事参加後に歩いて出勤する予定だったと見られています。広畠さんの自宅から勤務先までの距離は約2.8km、徒歩で約30分ほどだったそうです。
21時頃にマンション周辺の監視カメラに自宅を出ていく広畠さんの姿が映されており、その後も複数のカメラに工場方面に向かって歩いていく様子が収められていたといいます。
しかし、勤務開始時間になっても広畠さんは勤務先に現れませんでした。心配した同僚が広畠さんの携帯電話に連絡をしたものの、繋がらなかったとのことです。
事件当日の広畠さんの服装は黒色のTシャツにベージュのズボン、ベージュのショルダーバッグを肩から掛け、黒い鞄を持っていたといいます。
出典:https://www.police.pref.chiba.jp/
防犯カメラの情報と、遺体発見現場の緑地帯、勤務先の位置関係から考えて、広畠さんが襲われて殺害されたのは、6月23日の21時半前後と見られました。
広畠さんが通勤に使っていたという緑地帯の遊歩道は、街灯もまばらで薄暗い場所だったといいます。そのためか23日の21時から22時の間に「女性の悲鳴のようなものを聞いた」という証言はあっても、女性が襲われていたところを目撃した、怪しい人間を見たという人は現れなかったそうです。
習志野市茜浜女性殺害事件の詳細② 広畠かをりさんが襲われた理由
出典:http://world.chinadaily.com.cn/
翌24日の朝6時。遊歩道を散歩していた70代の男性が、緑地帯の植え込みから寝転がっている人間の足が見えたと証言しています。
広畠さんの遺体の第一発見者はこの男性であったそうです。しかし、この男性は「酔っ払いが寝ているのだろう」と判断して、警察はおろか病院にも通報しませんでした。
そしてその後10時40分頃、仕事で遊歩道にやってきた清掃員の男性(当時63歳)が広畠さんを発見。仰向けに倒れている人がいるとして警察に通報したのです。
広畠さんの遺体は遊歩道と緑地帯を仕切る約1.5mの高さの生け垣の奥の茂みで発見されたことから、警察は茂みに歩いていた広畠さんを押し込んで犯行に及んだものと判断しました。
また、発見された広畠さんの遺体の周辺には数メートルにわたって所持品が散乱しており、キャッシュカードは残っていたものの小銭まで現金が抜かれた状態の財布も落ちていたといいます。
事件現場の状況、そして広畠さんには人間関係のトラブルもなかったことから警察は面識のない人物による流しの強盗殺人と見て捜査を開始。
事件現場は周囲を木々に囲まれており、日が暮れるとほとんど人も通らないような場所だったといいます。
最短の通勤経路であったのか広畠さんは夜勤の際にも、この道を使っていた様子です。通りかかる人を待ち伏せして強盗を働こうとしていた者がいたのか、それとも人気のない時間にこの場所を女性1人で通る広畠さんが以前から狙われていたのか、なぜ彼女が襲われることになったのかは不明です。
習志野市茜浜女性殺害事件の詳細③ 楊暁春が逮捕される
出典:http://hazukinoblog.seesaa.net/
目撃証言もなく、事件解決につながる情報が出なかったことから、習志野市茜浜女性殺害事件は2014年2月26日に捜査特別報奨金制度の対象事件に指定されました。
事件が発生してから寄せられた情報は8ヶ月間でわずか50件ほどにとどまり、有力なものはなかったといいます。そのため、警察も懸賞金をかけることにしたのです。
犯人逮捕に結びつく有力な情報を提供した人には300万円を支払うと報じられ、2016年2月25日まで情報が募られました。しかし、この2年の間にもこれと言った情報は寄せられず、事件の迷宮入りが疑われたといいます。
そんな折、2016年3月3日に事件の捜査本部があった習志野署が、広畠さん殺害の犯人として楊暁春という住所不定無職の中国国籍の男を逮捕したのです。
千葉県警によると広畠さんの遺留品や事件現場周辺の監視カメラを解析したところ、事件当時、現場近くの工場に勤めていた楊暁春が浮上したとされます。
さらに警察が逮捕に踏み切った重大な証拠として、広畠さんの遺留品に付着していたDNA型が楊暁春のものと一致したというのです。
しかも楊暁春は習志野市茜浜女性殺害事件が発生する直前まで、現場となった緑地帯の近くに住んでいたものの、事件後に引っ越していることも確認されました。
そのため3月3日に楊暁春が刑期を終えて出所するのを待って、逮捕したのでした。
習志野市茜浜女性殺害事件の詳細④ 楊暁春の釈放
犯人が逮捕されて事件は解決されたものと思われましたが、逮捕から20日の勾留期間が過ぎた3月24日、千葉地検は「証拠不十分により起訴は困難」として楊暁春を処分保留で釈放すると発表したのです。
さらに釈放時、日本の在留資格を持っていなかったことから、楊暁春の身柄は入国管理局に移され、そのまま中国へ強制送還されました。
千葉地検は「今後の捜査の結果で(楊暁春)の処分を検討する」としていましたが、日本と中国の間には、互いの国で犯罪をおかした者を受け渡すという「犯罪人引渡し条約」が結ばれていません。
そのため、釈放後の捜査で楊暁春が犯人だという確固たる証拠が出たとしても、中国側には日本に彼の身柄を引き渡す義務がないのです。
こうなってしまうと「習志野市茜浜女性殺害事件は捜査をしても無駄、それどころか深追いすれば中国との間に国際トラブルが生じる危険性もある」事件になってしまったと言えるでしょう。
したがって「今後も捜査を続ける」と発表したものの、楊暁春の処分はどうなったのかも明かされず、真犯人も検挙されず、習志野市茜浜女性殺害事件は未解決のまま現在に至ります。
習志野市茜浜女性殺害事件についての考察① 真犯人は別にいると仮定
楊暁春以外に真犯人がいると仮定すると、なぜ広畠さんの遺留品から楊のDNA型が検出されたのでしょうか。
考えられる可能性としては、ほかの人物によって広畠さんが殺害された後、たまたま現場を通りかかった楊暁春が彼女の遺留品を漁って現金などを盗んだ、もしくは盗もうとしたというものです。
詳細は報じられていませんが楊暁春は窃盗で服役していたわけですから、傷害や殺人の現場から物を盗むことに抵抗がない人物だったかもしれません。
また広畠さんの遺体から絞殺するまでに時間がかかったのではないか、と予想されるほどの抵抗の跡が見られることから、犯人は力の弱い人物だったのではないかとも考察できます。
路上での流しの強盗の場合、犯人はナイフなどの凶器をちらつかせて金品を脅し取り、迅速に逃げるケースが多い傾向があります。
もちろん素手で殴打して所持品を盗むケースもありますが、素手で強盗をする犯罪者の多くが体力に自信があり、かつ高齢女性などをターゲットに選ぶため、これほど激しく抵抗を受け、手間取っている犯行は珍しいでしょう。
報道された楊暁春の姿を見る限り、女性1人から所持品を奪うのに難儀するほど非力な人物には思えません。
そのため真犯人は女性、高齢者、もしくは年少者など力が弱く、犯罪歴のない人物で、現金を脅し取ろうと広畠さんに近づいたところ思いがけず激しい抵抗にあい、勢い余って殺害してしまった。その後、事件現場に楊暁春が通りかかって落ちていたバッグや財布を漁って立ち去ったという可能性も否定できません。
習志野市茜浜女性殺害事件についての考察② 本当に起訴できなかったのか
千葉地検が楊暁春の起訴を断念したと発表した際、世間からは大きな批判の声が上がりました。DNA型が一致していると報じられていたため「証拠不十分」というアナウンスに対して、違和感を覚えた人も多かったのでしょう。
しかし遺留品とDNA型が一致していても、それだけで有罪の証拠にはなりません。前述したように広畠さんが強盗殺人に巻き込まれた後に楊暁春が通りかかり、落ちていた財布などを触っただけの可能性などもあるからです。
そのためDNA型が一致していることを根拠に揺さぶりをかけ、容疑者本人から自供を得られるのが理想なのでしょうが、勾留期間中に楊暁春はいっさい取り調べに協力せず、黙秘を貫いていたと報じられていました。
なお、起訴前の勾留は刑事訴訟法第208条によって原則として10日間と定められており、特段の事情がある限り、そこからさらに10日の延長が認められます。楊暁春は3月3日に逮捕され、24日に釈放されていますから、千葉地検は法律の認める最長の期間、楊の身柄を拘束してなんとか起訴できないか奔走していたものと見られます。
納得のいかない結末に、ネット上には「楊暁春を釈放した千葉地検は職務怠慢だ」という批判の声も少なからずあがっていました。しかし、千葉地検がどう頑張っても20日以上の勾留は法律上できないのです。
また入国管理局に身柄を受け渡したことについても批判があがっていましたが、これも仕方のないことでした。
逮捕前に楊暁春は、窃盗で服役していたと報じられていました。日本人の配偶者がいる、日本に永住権を持っているなどの事情がない限り、窃盗で有罪判決を受けた者は刑期を終えた後に入管に送られて強制送還という流れになります。
こちらも出入国管理及び難民認定法24条に定められた手続きとなるため、千葉地検も従うほかなかったのです。
習志野市茜浜女性殺害事件の現在
楊暁春が釈放され、強制送還になって以降、習志野市茜浜女性殺害事件について新たな展開があったとの報道は聞かれません。
2014年、2015年には警察や遺族が事件現場周辺や京成谷津駅、JR津田沼駅などでビラ配布をしている様子が新聞などで報じられていました。しかし警察庁捜査特別報奨金の対象ではなくなったためか、2016年以降はそのような活動の情報も見られなくなりました。
習志野署の矢野義春署長は「被害者には何の落ち度もない。犯人に対しては『絶対捕まえてやるから、待っていろ』と言いたい」と話し、事件解決への協力を訴えた。
2014年の年末には、犯人逮捕に向けて上のように意気込んでいた習志野署も、今はどのような捜査をしているのか不明です。
習志野市茜浜女性殺害事件についてのまとめ
今回は2013年に発生した未解決事件、習志野市茜浜女性殺害事件について現在わかっている情報を紹介しました。
楊暁春が広畠かをりさんを殺害したのか、真犯人がいるのかは不明です。しかしほかに怪しい人物も見られず、限りなく黒に近いグレーと見られていた楊暁春が強制送還されて中国に戻り、手出しができなくなったことから、この事件は「犯人がわかっている未解決事件」と呼ばれることもあります。
日本は現在、アメリカと韓国の2国としか犯罪者引き渡し条約を締結していません。このような後味の悪い事件を起こさないためにも、より多くの国家との間に条約締結が求められます。