エミレーツ航空521便着陸失敗事故は2016年8月3日、アラブ首長国連邦のドバイ国際空港への着陸に失敗した航空機が炎上した航空事故です。
この記事ではエミレーツ航空521便着陸失敗事故の概要や経緯、その後、事故発生の原因やエミレーツ航空の安全性と評判についてまとめました。
この記事の目次
エミレーツ航空521便着陸失敗事故はドバイ国際空港での着陸失敗炎上事故
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「エミレーツ航空521便着陸失敗事故」は、2016年8月3日にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ国際空港で発生した航空機事故です。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故は、ドバイを本拠とする航空会社「エミレーツ航空」が運行する大型ジェット機(トリヴァンドラム国際空港発ドバイ国際空港行き、エミレーツ航空521便。機種はボーイング777-31H)が、着陸に失敗して機体が激しく炎上した事故でした。
事故を起こしたエミレーツ航空521便には、乗員18名、乗客282名の合計300名が乗っていましたが事故発生後すぐに脱出に成功したため、そこからの死者は1人も出ませんでした。しかし、事故発生後に消化活動にあたった消防士1名が殉職しています。負傷者は39名(消防士7名含む)で、その内訳は客室乗務員4名が重傷を負い、その他の35名が軽傷でした。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故の経緯
エミレーツ航空521便着陸失敗事故を起こしたエミレーツ航空521便は、2016年8月3日のIST(インド標準時間)の午前10時34分にインドのトリヴァンドラム国際空港を離陸しました。目的地はアラブ首長国連邦のドバイ国際空港で、到着予定時刻はGST(湾岸標準時)の午後12時24分でした。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故は、GST午後12時37分に発生しました。事故発生の直前、エミレーツ航空521便はドバイ国際空港の滑走路に着陸を試みた際、航空管制の観点からは、滑走路への進入と着陸は正常であり、航空管制記録によると緊急事態は宣言されていませんでした。
エミレーツ航空521便は速度162ノット(時速300km)でドバイ国際空港の滑走路に進入し、1度接地しましたが、その2秒後に機長が着陸復行を宣言(何らかの理由で安全な着陸ができないとパイロットが判断し、着陸をやり直すために再上昇を試みる事)しました。
これを受けて、ドバイ国際空港の管制塔は、4000フィート(1200km)への上昇を許可しましたが、その直後(主脚が接地してから6秒後)、前輪がまだ滑走路から離れている状態で、エミレーツ航空521便は上昇姿勢を取り、滑走路から最大で85フィート(約26メートル)にまで上昇しましたが、そこから再び高度が下がり、再離陸から約15秒後に滑走路に衝突しました。
エミレーツ航空521便は、後部胴体の下部から滑走路に衝突し、着陸装置が一部格納されたままの状態で滑走路に沿って約800メートルにわたって横滑りしたのち、右方向に120度旋回しました。この機体の横滑り時に第2エンジンが分離し、翼の前縁に沿って翼端に向かって滑走しました。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故の被害者
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ドバイ国際空港の管制塔は即座に緊急サービスへの通報を行い、事故発生から33秒後に消防車両(緊急時に備えて空港に配備されている車両)が現場に到着して消化活動を開始しています。
事故発生後、乗客と乗員300名は機外へと脱出。エミレーツ航空521便が完全に停止してから約9分後に、機体中央の燃料タンクに引火して爆発が発生し、消化活動にあたっていた当時27歳の消防士のジャシム・アル・バルーシ(Jassim al-Balooshi)さんが亡くなりました。
この爆発では、他に機内に再び戻り逃げ遅れた乗客がいないかの最終確認を行なっていた機長と上級客室乗務員の4名が煙を吸い込むなどして重傷を負い、さらに、消化活動にあたっていた7名の消防士が軽傷を負っています。
その後、火災は機内の客室にまで燃え広がり、完全な鎮火まで約16時間を要しました。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故の影響やその後の対応
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事故発生中および事故後にドバイ国際空港は閉鎖されて多くの便が迂回し、約23000人に影響が出ましたが、現地時間18時30分から使用可能なドバイ国際空港の滑走路とドバイ近郊にあるアール・マクトゥーム国際空港での到着便の受け入れが再開されています。
事故が発生した滑走路も、翌8月4日の17時45分(現地時間)には損傷の修復が終わって運用が再開され、事故発生から72時間後の8月6日にはドバイ国際空港の通常通りの運行が再開されました。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故発生から8日後の8月11日、エミレーツ航空は事故にあった282名の乗客に対し、1人あたり7000ドルの補償金を支払っています。補償金の内訳は荷物と所持品の損失に対して2000ドル、その他の損害に対して5000ドルと発表されています。
また、この事故を受けてエミレーツ航空は、トリヴァンドラム国際空港発ドバイ国際空港行きの便名を523便に変更しています。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故発生後、避難時の機内の様子の動画も話題に
エミレーツ航空521便着陸失敗事故発生後、YouTubeで着陸失敗後の避難時の機内の様子を乗客が携帯電話で撮影した動画がYouTubeに投稿され話題になりました。
この動画では、避難指示に従わずに自分の荷物を優先しようとする一部の乗客のせいで、避難に時間がかかり他の乗客が危険にさらされている様子が撮影されており、多くの批判が集まりネット上での炎上騒動へと発展しました。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故の原因はパイロットエラー
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エミレーツ航空521便着陸失敗事故の原因は、事故後の調査でパイロットエラー(パイロットの人的なミス)だと結論づけられています。
事故調査は、アラブ首長国連邦民間航空局(General Civil Aviation Authority)の調査委員会により、エミレーツ航空と機体製造元のボーイング、エンジン製造元のロールスロイスの協力を得て実施されました。また、アメリカの国家運輸安全委員会(NTSB)から5人の調査員が派遣されました。
2016年9月に公表された予備報告書では、事故の原因について、パイロットは短時間の着陸後に再離陸を試みたが、着陸装置を格納したまま着陸復行を試みたため推力を失った機体が最終的に滑走路に衝突したとの調査結果が示されました。
その後、2020年2月6日に最終調査報告書が発表され、エミレーツ航空521便着陸失敗事故の原因として主に以下の内容が指摘されました。
① 着陸復行を試みた際、墜落前の最後の3秒間を除いて、両エンジンのスラストレバー操作とエンジンの推力がアイドル状態のままにされていたため、動機のエネルギー状態は飛行を維持できない状態だった。
② パイロットは着陸中および、着陸復行中に主要な飛行計器の確認と監視を行なっていなかった。
③ 着陸復行及び進入復行手順である「FCOM」の開始時に、機長が「TO/GAスイッチ」(大型航空機のオートスロットルのスイッチ)を押した後、オートスロットル(A/T)がエンジン推力レバーを離陸/ゴーアラウンドスイッチ(TO/GA)の位置に動かすように反応しなかった事にパイロット(機長および副操縦士)が気づいていなかった。
④ パイロットはFCOMのエンジン推力の確認手順を省略したため、エンジンの推力を増加させるための是正措置を講じなかった。
そして、エミレーツ航空521便着陸失敗事故の最終報告書は、事故原因はパイロットの訓練不足にあったとして以下のように結論づけています。
飛行乗務員が自動化に依存し、滑走路近くからゴーアラウンド飛行を行う訓練が不足していたため、模擬訓練飛行で経験した状況とは異なる危機的な飛行状況において、飛行乗務員のパフォーマンスに大きな影響が出た。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故の原因とされたパイロットについて
エミレーツ航空521便着陸失敗事故を起こしたエミレーツ航空521便の機長は、事故当時34歳のアラブ首長国連邦国籍の人物(氏名非公開)で、2001年3月からエミレーツ航空に勤務しており、事故を起こすまでの総飛行時間は7457時間で、そのうちボーイング777(事故を起こした機種)での飛行時間は5123時間でした。
また、副操縦士は事故当時37歳のオーストラリア国籍のジェレミー・ウェッブ(Jeremy Webb)という男性で、2014年10月からエミレーツ航空に勤務し、事故までの総飛行時間は7957時間、そのうちボーイング777での飛行時間は1292時間でした。
副操縦士のジェレミー・ウェッブさんは事故後にメディアで取りあげられており、調査報告では事故の原因とはされたものの、勇敢に救助活動を行い乗客全員の命を救った英雄として称賛されています。(上の画像の左側の男性がジェレミー・ウェッブ)
エミレーツ航空521便着陸失敗事故のエミレーツ航空の安全性や評判
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エミレーツ航空521便着陸失敗事故を起こしたエミレーツ航空は、アラブ首長国連邦(UAE)の航空会社で、アラブ航空会社機構 (Arab Air Carriers Organization) に所属しています。エミレーツ航空はアラブ首長国連邦でもエティハド航空と並ぶ大きな航空会社で、その安全性の高さやサービスの質の高さには定評がありました。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故はエミレーツ航空が1985年に設立されて以来、初めて発生した唯一の機体損失事故で、それまでは1度も大きな航空事故を起こしていない事からもその安全性の高さは証明されているとも言えます。
また、エミレーツ航空521便着陸失敗事故後の対応でも、事故発生後に素早く乗客を機外に避難させ、乗員も含めて1人の犠牲者も出さなかった事から、事故後はむしろ安全勢で高い評判を得ています。
乗客282人、乗員18人が助かった理由の中でも、主に挙がるのはエンジニアリングの「奇跡」と、よく訓練された乗員だ。航空機からの避難は90秒で行う必要があり、乗員はこれを達成する訓練を受ける。90秒でできれば、機体が炎に包まれ煙に覆われる前に脱出するチャンスが得られる。
まとめ
今回は、、2016年8月3日にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ国際空港で発生した航空機事故「エミレーツ航空521便着陸失敗事故」についてまとめてみました。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故は、インドのトリヴァンドラム国際空港を離陸し、ドバイ国際空港に着陸したエミレーツ航空521便が、着陸に失敗して炎上を起こした航空事故でした。
エミレーツ航空521便には、乗員乗客合わせて300名が乗っていましたが、事故発生後の避難が成功して犠牲者は1人も出ていません。しかし、避難完了後に発生した爆発により、消化活動にあたっていた消防士1名が亡くなっています。また、重傷4名を含めて39名の方がこの事故により負傷しています。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故の原因は、事故後の調査により、パイロットの訓練不足によるミスだと結論づけられています。エミレーツ航空は被害にあった乗客に対し1人あたり7000ドルの補償金を支払いました。
エミレーツ航空521便着陸失敗事故を起こした、エミレーツ航空はアラブ首長国連邦ドバイに本拠地を置く大手の航空会社で、高い安全性には定評があり、サービスの質の良さでも評判を得ています。このエミレーツ航空521便着陸失敗事故も、エミレーツ航空が創業以来起こした初めての大規模事故であり、これ以外に大きな事故を起こした事は2024年現在までで1度もありません。