全日空857便ハイジャック事件の犯人は実名は小林三郎ではなく九津見文雄?事件の判決や犯人の現在まで総まとめ

全日空857便ハイジャック事件は、1995年に発生した羽田発函館行きのボーイング747SRのハイジャック事件です。この記事では全日空857便ハイジャック事件について動機や判決、犯人とされる小林三郎の本名/九津見文雄や家族、結婚、現在について紹介します。

全日空857便ハイジャック事件の概要

 

出典:https://www.youtube.com/

 

全日空857便ハイジャック事件は、1995年6月21日に北海道の函館空港で発生したボーイング747SR機の占拠事件です。

 

ハイジャックされた全日空857便は、羽田空港(現在の東京国際空港)を出発し、目的地の函館に向かう最中に「オウム真理教の信者でサリンを持っている」という「コバヤシ サブロウ」を名乗る中年の男に乗っ取られ、そのまま函館空港に着陸。

 

空港着陸後、犯人は乗客ら365人を人質にとり、麻原彰晃の釈放などを訴えました。

 

そのため、事件発生後にオウム真理教のスポークスマンであった上祐史浩氏が会見を行い、「事件と教団は無関係」と主張するなどして、犯人の正体についても注目が集まりました。

 

最終的に事件発生の翌日には北海道警察の捜査員や警視庁の機動隊による突入が行われ、犯人の逮捕に成功。

 

逮捕後に犯人の男は53歳の東洋信託銀行(三菱UFJ信託銀行)の行員であり、単独の犯行だったこと、オウム真理教とは無関係だったことが明らかにされました。

 

また全日空857便ハイジャック事件は、日本で発生したハイジャック事件で初めて警察による強行突入がされた事件でもあり、SATが公表されるきっかけにもなっています。

 

 

 

全日空857便ハイジャック事件の詳細① 事件の発生

 

出典:https://www.youtube.com/

 

1995年6月21日11時45分頃、山形上空を飛行中の全日空857便が乗客の中年男性に占拠されました。

 

男は隠し持っていた銀色の保冷バッグにドライバーを向け、「自分はオウム真理教の信者だ。この中身はサリンだ。鞄の中にはプラスチック爆弾も入っている。俺には仲間がいる。抵抗せずに静かにしていれば何もせずに解放してやる」と、乗客にドリンクの提供をしていた客室乗務員を脅迫しました。

 

折しも3ヶ月前に地下鉄サリン事件が起き、オウム真理教の幹部らが容疑者として逮捕されたばかりであったため、男の脅しには信憑性がありました。

 

そのため客室乗務員の女性も男の言うことに従うしかなく、指示されるがままに手渡されたガムテープで目と口を塞ぎ、両手を後ろ手に縛るなどして乗客を拘束してまわったといいます。

 

全日空857便には子ども7人を含む乗客350人が乗っており、乗員と合わせると365人が搭乗していました。

 

ハイジャックされたまま全日空857便は12時42分頃に函館空港に着陸。これは概ね予定時刻通りの到着でした。

 

出典:https://www.youtube.com/

 

着陸した時の報道によると客室乗務員の1人が凶器の千枚通しを向けられ続けており、フライトエンジニアも拘束されているとのこと。

 

この時点では犯人が単独なのか、複数なのかははっきりしておらず、以下の要求があったことだけが報じられます。

 

・尊師(麻原彰晃)を釈放しろ。

 

・地上から機体に近づくな。

 

・双眼鏡を持って来い。

 

・すぐに燃料補給をして羽田に引き返せ。

 

また、犯人の男は「コバヤシ サブロウ」と名乗っており、これが本名なのか偽名なのかは不明だということも早期に報道されました。

 

 

 

全日空857便ハイジャック事件の詳細② オウム真理教による会見

 

出典:https://www.youtube.com/

 

全日空857便が到着した際、空港にはマスコミや近隣住民が待ち構え、ロビーにも出迎えに訪れた人々が詰めかけて騒然とした状況だったとされます。

 

しかし、夕方になると函館空港へ続く道路はすべて封鎖されて空港内からも民間人は返され、警察や医療従事者が待機することとなりました。

 

18時を過ぎても犯人は自ら外部とやり取りをせず、要望は機長と函館空港の管制室を通じて一方的に伝えられたうえに窓も締め切られていたため機内の状況はわからず、機内にいる子どもや高齢者の健康状態も心配されました。

 

一方で警察が搭乗者名簿を調べたところ、6人ほどの予約が入っている2階席に「コバヤシ サブロウ」という名前で予約が入っていたことが判明します。

 

しかし、全国の警察を動員して身元を調べたもののコバヤシの正体はわからず、依然として本名か偽名かわからない名前と、要求のみしかわからないまま。直接交渉も拒否されて、時間が過ぎていきました。

 

そして夜になって、オウム真理教の上祐史浩氏が教団を代表して会見を行います。犯人がオウム真理教の信者を自称し、麻原彰晃の解放を要求していたためです。

 

上祐氏は「教団として信者にハイジャックの指示を出した事実はない。この犯人が本当にオウムの信者ならば、除名する意向だ」と発表。

 

同時にインタビューを受けていた信者らも「この犯人が本当に教団信者かはわからない。逮捕後に身元が割れるのを待ちたい」と答えていました。

 

教団側が「逮捕を待ちたい」というコメントを出したこと、さらに麻原彰晃の名前を出したのが初期の要求の時だけだったことから、事件発生時には「オウムの犯行か!?」と過熱していたマスコミの報道も、「犯人はオウムとは無関係なのではないか」と変化していきます。

 

というのも犯人は17時の段階で「オウムの関係者だ」と脅迫するのをやめており、「自分はエイズ患者だ」「時間が来ても要求が通らないなら、乗客らに危害をくわえる」などと話すようになっていたのです。

 

ジャーナリストの江川紹子氏も事件当日の夜にテレビに出演し、「新団体を立ち上げようとしている時に、このような事件をオウムが起こすとは思えない。犯人はオウムを名乗っているだけではないか」と指摘していました。

 

 

 

全日空857便ハイジャック事件の詳細③ 機内との連絡

 

 

そのようななか、機内の情報を外部に伝える乗客が現れます。

 

全日空857便には、偶然歌手の加藤登紀子さんと彼女の実母、バックバンドのメンバーが北海道公演に向かうために搭乗していました。

 

加藤さんのバックバンドのリーダー兼ギタリストの告井延隆(つげい のぶたか)さんは、加藤さんのマネージャーが当時珍しかった携帯電話を所持していることに気づき、行動を起こしたのです。

 

告井さんは犯人の目を盗んでマネージャーから携帯電話を借りてトイレに隠れ、そこから北海道警察に連絡。機内の情報を警察に伝えることに成功します。

 

目隠しをされて他の乗客と一箇所に固められていたため、告井さんはそこまで多くのことを把握できていなかったものの、犯人の動向や乗客の状況などを4〜5回にわけて報告したそうです。

 

警察が一番気にかけていたのは乗客や乗員の無事であり、告井さんの情報は事件解決に役立ちました。

 

突入して犯人を逮捕すること自体は容易ですが、サリンを所持している疑いがある以上、人質を全員無事に保護するためには警察も綿密なシミュレーションが必要だったのです。

 

告井さんからの情報を得て、警察は乗客や乗員は脅されているものの暴力は振るわれていないこと、極めて体調が悪そうな人はいないことを知り、まだ時間に猶予があると判断。落ち着いて対策を協議できたといいます。

 

この時のことを振り返って告井さんは「食事も水もない悲惨な環境で、乗客の男はトイレに入ることも許可されていなかった。最初は警察に電話をしているのがバレたら殺されるかもしれない、と怖かったけど、1度通報に成功したら『できることをやってやる』という義務感のようなものがでた」といった話をされています。

 

 

 

全日空857便ハイジャック事件の詳細④ 突入

 

出典:https://www.youtube.com/

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日付が6月22日に変わる頃、犯人は事件を起こした時点で言っていた「コバヤシサブロウ」という名前と、オウム真理教の信者であることを撤回します。

 

自分の要望は羽田に変えることだけであり、その他のことは口にした覚えがないと急に発言内容を変えたのです。

 

これを聞いた北海道警察の本部長は「オウムと関係がないのなら、突入できる」と確信したそうです。

 

さらに、告井さんからの情報提供で対策本部内で「犯人は1人の可能性が高いのではないか?」という疑惑が持ち上がり、最高作戦会議で「強行突入するべきだ」という結論が出たとされます。

 

同時に発言から犯人はTVやラジオを使って情報収集していると見た警察は、函館空港から生中継を続けるTV局に対して「機動隊が機体に近づくことを知られたくないため、飛行機の車輪部分は撮影しないように」という通達を出しました。

 

こうして22日の3時37分、村山富市首相の指示でついに全日空857便への強行突入が行われたのです。

 

機動隊や警官らは機体の下からはしごを延ばして進入し、逃げようとした犯人をあっという間に取り囲んで突入からわずか10秒程度で確保。

 

乗客のうち1人、若い女性ががトイレに移動する際に左肩を千枚通しのようなもので一回突き刺さされて軽傷を負っていたものの、彼女以外に怪我をした人はおらず、犯人確保後にこの女性と気分の悪さを訴えた乗客6名が病院に搬送されました。

 

なお、女性の負った傷については浅さから考えて犯人が故意に負わせたものではなく、狭い場所をすれ違う際に誤って刺してしまっただけと判断されています。

 

 

 

全日空857便ハイジャック事件の犯人の実名は小林三郎ではなく九津見文雄?

 

出典:https://aucview.aucfan.com/

 

全日空857便ハイジャック事件の犯人は「小林三郎」とされていますが、これは実名ではありません。

 

犯人の本名は「九津見文雄」といいます。本名は6月22日の事件解決後に新聞などで報じられていた様子で、『週刊新潮』にも「妻も愛人も見捨てた全日空ハイジャック『九津見文雄』」という記事が掲載されていました。

 

ほかにも報道写真を掲載している「Aflo」のサイトで全日空857便ハイジャック事件を検索してみると、当時新聞に掲載されていた写真とともに「全日空857便ハイジャック事件を起こした九津見容疑者の勤務先」といったキャプションが確認できます。

 

「コバヤシサブロウ」は事件発生時に犯人が自称していた名前であり、やはり偽名だったのです。

 

なお、精神疾患があったためか久津見の名前は事件後あまり大きくは報じられなかったようです。

 

そのせいか現在でもネット上では偽名に漢字を当てはめた「小林三郎」という名前が、全日空857便ハイジャック事件の犯人の本名として紹介されていることがあります。

 

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また、犯人には精神障害や知的障害があったために本名が明かされなかったと書いているサイトも見受けられましたが、裁判の記録を読む限り久津見に障害はなく、自律神経失調症の診断を受けていたことだけが明らかになっています。

 

 

 

全日空857便ハイジャック事件の動機

 

出典:https://www.youtube.com/

 

逮捕後の供述によると犯人の九津見文雄はオウム真理教の信者ではなく、麻原彰晃の釈放も事件を起こした動機ではありませんでした。

 

また、サリンだと言って客室乗務員を脅すのに使用した液体もただの水で、プラスチック爆弾だとしていた物体も犯行前日に購入したという粘土の塊でした。

 

九津見が機内に持ち込んだ凶器のうち、殺傷能力があったものは乗客の女性に過失で怪我を負わせた千枚通しだけだったそうです。

 

九津見はTVや新聞でオウム真理教と麻原彰晃が起こした数々の事件を知って腹を立て、オウム信者を名乗って大きな事件を起こせば麻原と教団に厳罰が下されるだろうと考えてハイジャックに及んだといいます。

 

放っておいても麻原彰晃には死刑判決が下るだろうに、なんでそんな馬鹿なことをしたのか、と思う方もいらっしゃるかもしれません。

 

しかし、地下鉄サリン事件直後の報道では麻原彰晃の裁判決着には10年以上かかる、犯行を指示しただけとされていることから、それを裏付ける証拠や証言が得られなければ無罪になる可能性もあり得ると報じられていました。

 

そのため憤りにかられ、事件を起こす前月に読んだ週刊誌に「オウム真理教の信者がハイジャック事件を起こして教祖を奪還する計画を立てているらしい」という記事を見つけて「それなら自分が信者を装ってハイジャック事件を起こそう」と思い至ったそうです。

 

もしも要望通りに麻原彰晃が釈放されたら、一緒に自殺することで国民の英雄になれるのではないかと考えていた、とも供述しています。

 

 

 

全日空857便ハイジャック事件の判決

 

出典:https://www.pakutaso.com/

 

全日空857便ハイジャック事件の裁判では、犯人の責任能力の有無が争点となりました。被告人は精神疾患を持っていたために犯行時は心神耗弱状態にあった、と弁護人は主張したのです。

 

弁護側が提出した簡易鑑定では、「被告人は犯行時に双極性感情障害の躁状態にあり、物事を判断する能力が著しく低下していた」との結果が出ていました。

 

一方で検察側の鑑定では「被告人は犯行時にヒステリー性格であったと思われるが、これは単なる性格の問題であり、物事を判断する能力はあった」とされました。

 

函館地方裁判所はこれらの鑑定結果を参考にしたうえで、「被告人は犯行時に躁うつ病の診断を受けておらず、具体的な供述からも責任能力はあったと考えられる」と判断。1997年3月21日に懲役八年の実刑判決を言い渡しました。

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この判決に対して検察、弁護側双方が控訴し、1999年9月30日に札幌高等裁判所は一審の判決を破棄して懲役10年の実刑判決を言い渡し、どちらも上告しなかったために刑が確定しています。

 

また、全日空も民事訴訟を起こしており、久津見には賠償金5,300万円の支払いが命じられました。

 

 

 

全日空857便ハイジャック事件の犯人は結婚して家族がいた?

 

荒唐無稽な理由で大事件を起こしていることから、全日空857便ハイジャック事件の犯人は今で言うところの無敵の人なのかと思いきや、結婚していて子どもがいたことが明らかになっています。

 

九津見文雄は1965年に結婚し、妻との間に3人の子をもうけていたそうです。さらに1989年に仕事の接待で知り合った女性と親密になり、彼女との間にも子どもが誕生していたといいます。

 

2つの家庭を養わなければいけなくなったことから、九津見は信託銀行の行員として務める傍ら、副業として業務実態のない会社を運営して裏金調達をして、愛人とその子どもの生活費を賄っていました。

 

ところがバブルが崩壊して副業も上手くいかなくなった頃、勤務先に「あの行員は愛人に子どもを産ませていて、怪しい会社経営の副業までしている」といった旨の匿名の投書が届き、九津見は閑職に追いやられて出世の道を絶たれてしまったのです。

 

2人の妻と4人の子どもを養うだけのお金を稼げなくなった九津見は経済的に窮し、その悩みから自律神経失調症を患いました。

 

さらに肝機能障害や高脂血症も発症し、1994年10月からは休職扱いになっていました。

 

こうして多くの悩みを抱えた九津見は自殺を考えるようになり、「麻原彰晃を道連れに自殺して、世間から称賛されたい」と思うようになったといいます。

 

なお、全日空857便ハイジャック事件を起こした理由として「自殺をして生命保険で家族にお金を渡したい」というものもあったそうです。

 

 

 

全日空857便ハイジャック事件の犯人の現在

 

九津見文雄は、全日空857便ハイジャック事件を起こした翌日に東洋信託銀行を解雇されています。

 

家族については、事件を起こす2日前に本妻に離婚の話を切り出しており、東京大田区内の自宅から愛人の家に自分の荷物を運び出していたといいます。

 

しかし事件前日になって、妻から財産分与など納得いかないことがあるとして離婚を拒否されてしまい、離婚届は提出できませんでした。

 

未決勾留日数を刑期に含めるという判決が出ているため、久津見は2007年には刑期を終えて出所したものと思われます。

 

その後、どのように暮らしているのかは不明ですが、事件前から離婚の話が出ていたとのことから、おそらく妻との離婚は成立しているのではないかと考えられます。

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全日空857便ハイジャック事件のその後と現在

 

自社の社員が大事件を起こしたことから、東洋信託銀行は事件解決直後に複数の新聞に謝罪広告を掲載し、6月末に開かれた株主総会でも社長が冒頭に頭を下げる場面があったといいます。

 

また、警視庁は1977年に発生したダッカ日航機ハイジャック事件で極秘に組織したSAT(警視庁特殊部隊)の存在を全日空857便ハイジャック事件後に公にする決断をしており、1996年にこれまで非公式扱いしていたSATの存在を公表しています。

 

そして北海道、千葉、神奈川、愛知、福岡、沖縄の6つの都道府県警察にSATを新設しました。

 

事件をまとめた書籍も出版されている

 

現在でも全日空857便ハイジャック事件については『奇跡体験!アンビリバボー』(2016年6月30日放送)や『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』(2019年3月19日放送)など、TV番組で特集されることがあります。

 

出典:https://hakurosya.ocnk.net/

 

さらに2019年には、事件時に北海道新聞社函館支局に勤務していた相原秀起氏が『ANA857便を奪還せよ-―函館空港ハイジャック事件15時間の攻防』という書籍を出版しています。

 

解決が早かったためか意外と忘れている方も多い事件のため、読者からは「本書で警察の動きや機内の様子、犯人の身勝手さを初めて知って驚いた」という感想が寄せられています。

 

全日空857便ハイジャック事件についてのまとめ

 

今回は1995年6月21日から22日にかけて発生した全日空857便ハイジャック事件について、事件の発生から警察突入までの流れや、犯人の本名、動機やその後をふくめて紹介しました。

 

正直なところ、この事件は動機が判明しても犯人に理解も同情もできず、何をどうしたらこんなに自分勝手なことを考えられるのかと首をかしげたくなるほどです。

 

乗客や乗員に大きな被害がなく、無事に全員が保護されたことが救いです。また、危険を冒して機内の情報を警察に伝えた告井さんの勇気には頭が下がります。

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