氷見事件の犯人/柳原浩は冤罪で真犯人は大津栄一!警部補や国家賠償・その後現在まとめ

氷見事件とは2002年に発生した強姦・強姦未遂事件で、柳原浩さんが冤罪で逮捕されたことから氷見冤罪事件とも呼ばれます。氷見事件をわかりやすく説明し、冤罪を生んだ警部補や真犯人・大津栄一の現在、国家賠償請求のその後について紹介します。

氷見事件の概要

 

出典:https://sumiyakist.exblog.jp/

 

2002年1月14日、富山県氷見市内で当時18歳の女性が男に襲われるという事件が発生しました。

 

現場となったのは女性の自宅で、家に侵入してきた男はナイフを突きつけて女性を脅し、強姦したとされます。

 

そのまま男は逃走し、翌月にも類似の事件が発生。3月13日、同じく氷見市内で当時16歳の女性が、自宅にいたところ侵入してきた男に襲われたのです。

 

この女性もナイフで脅されてましたが、必死に抵抗したことでなんとか男を追い返すことに成功したといいます。

 

そして4月15日、3月に発生した強姦未遂事件の犯人として、氷見市内でタクシー運転手をしていた柳原浩さん(当時34歳)が逮捕されます。

 

警察が柳原浩さんを逮捕した理由は、被害者や現場周辺にいた人々の目撃証言から浮かび上がった犯人像と、柳原浩さんの容姿が似ていたからというだけで、物的証拠はありませんでした。

 

しかし、警察は柳原浩さんを犯人だと決めてかかり、高圧的な取り調べを行いました。取り調べでは「はい」「うん」という言葉以外は喋るなと脅され、無理矢理に柳原さんが罪を認めた、自供したという流れに持ち込んだのです。

 

こうして柳原浩さんはやってもいないことを認めたかたちになってしまい、取り調べの最中に偽物の物証まで作り上げられてしまいます。

 

最終的に1月に起きた強姦事件の罪まで被せられた柳原浩さんは、裁判でも有罪判決を受けて懲役3年の有罪判決を受けました。

 

が、柳原浩さんが刑期を終えて出所した後も2006年、別の強制わいせつ事件で逮捕された大津栄一(当時51歳)が、氷見の事件の真犯人だった可能性が浮上したのです。

 

結局、その後の調べで氷見で起きた強姦・強姦未遂事件の犯人も大津栄一の犯行であったことが確定し、柳原浩さんは冤罪も確定します。

 

冤罪確定後、証拠をでっち上げたことや取り調べの酷さから富山県警には批判が集まりました。

 

柳原浩さんが提起した国家賠償訴訟では富山県警の捜査の違法性が認められ、賠償金の支払いが命じられています。

 

しかし、柳原浩さんが失った時間が戻らないのはもちろんのこと、なぜ冤罪を生む取り調べを行ったのか富山県警から十分な説明もされないまま、事件は後味の悪い解決となりました。

 

 

氷見事件の流れをわかりやすく説明① 事件発生

 

2002年1月14日の午前8時30分頃、富山県氷見市内の民家に男が押し入るという事件が発生します。

 

男は鍵のかかっていない玄関から土足で家に上がり込み、在宅していた18歳の女性の頬に刃渡り9.5cmのナイフを突きつけて「警察に言ったら殺す」などと脅して、女性を強姦。

 

その後、同年月同年3月13日14時40分頃、富山県氷見市内の別の民家にまたしても男が土足で押し入り、在宅していた16歳の女性を強姦目的で脅すという事件が起こります。

 

男は1月の強姦事件で用いたのと同じ凶器を女性の首にあてて「騒いだら殺す」などと脅して姦淫に及ぼうとしました。

 

しかし、女性の抵抗が激しかったために想定以上に時間が経ってしまったことから、家族が帰宅する気配を察して男は途中で逃走します。

 

犯行の手口や被害者の証言、現場に残った下足痕から、1月と3月の事件は同一犯によるものと見て、富山県警は捜査を開始しました。

 

 

氷見事件の流れをわかりやすく説明② 柳原浩さんが逮捕される

 

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2002年4月15日、3月に発生した強姦未遂事件の容疑者が富山県警氷見警察署に逮捕されます。

 

逮捕されたのはタクシー運転手の柳原浩さんで、柳原さんは被害者宅の近くで父親ととも生活をしていました。

 

事件が起きたのは氷見市の山間の集落で、それほど住民が多い地域ではなかったとされます。

 

近隣住民からの柳原浩さんの評判は良好で、周囲からは「逮捕されたと聞いた時は、信じられなかった」「優しい男だからね、そんなことできるわけないと思った」といった証言が出ていました。

 

4月初め、柳原浩さんはタクシーの中でルート確認をしていたところ、急に警察官に囲まれて車から出てくるように言われて、そのままわけもわからずタクシーに押し込まれて警察署に連れて行かれたそうです。

 

後に富山県警は「任意動向だった」と説明していますが、柳原浩さんからは「任意性などなかった」という証言が出ています。

 

服を掴んで有無をいわせずにパトカーで連行するという強引な方法でしたが、警察は物証があって柳原浩さんを拘束したわけではありませんでした。

 

実は氷見事件では犯人特定につながる証拠はまったくなく、警察が柳原浩さんに目をつけた理由も、被害者が証言した犯人像に柳原さんの風貌が似ていたからというものです。

 

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上の画像は、被害者の証言をもとに実際に警察が作成した犯人の似顔絵です。

 

捜査官はこれをもとに、目が大きく、髪が短い男性を集落の住民の中からピックアップし、彼らの顔写真を被害者に見せたといいます。

 

すると被害者の女性は2人とも、「この人が犯人に似ている」と柳原浩さんの写真を指差したのです。

 

 

事情聴取を受けている柳原浩さんの様子を被害者にマジックミラー越しに見せて、「声が似ている気がする」という言葉を引き出した捜査官は、犯人は柳原さんだと決めつけて4月15日に逮捕します。

 

そして、柳原浩さんが犯人だという結末に沿うように取り調べを開始しました。

 

 

氷見事件の流れをわかりやすく説明③ 警察の悪質な取り調べ

 

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氷見署が作成した事件報告書では、「4月15日になってようやく、被疑者が犯行を自供したため逮捕した」とあり、裁判でもこれが認められました。

 

これだけ見ると、任意同行から時間を約一週間の時間をかけてしっかり取り調べを行い、観念した被疑者から自供を得たように見えます。

 

しかし、実際には柳原浩さんは警察に連行された初日は何の事件で聴取を受けるのかも教えたもらえず、自分に強姦未遂事件の容疑がかかっていると知らされたのも、身柄拘束の2日後だったそうです。

 

この時点ですでに不自然なのですが、本格的に取り調べを始めると以下のようなことを言って柳原浩さんを追い詰めたといいます。

 

・こちらからの質問にはすべて「はい」か「うん」で答えろ

 

・亡くなった母親に顔向けできるのか

 

・お前の姉は「弟が犯人に違いないから、早く処分してくれ」と言っている

 

遮断された空間で捜査官から恫喝された柳原浩さんは、「家族からも見捨てたれた」「自分は何もやっていないのに、家族も信じてくれない」と絶望感に襲われていきました。

 

そして、質問には肯定しか返すなというとんでもない要求にも、「違う、おかしいと答えたら何をされるかわからなくて怖かった」という恐怖心から応じてしまったのです。

 

 

氷見事件の流れをわかりやすく説明④ 証拠の捏造

 

柳原浩さんを脅してやってもいない強姦未遂を認めさせた警察でしたが、検察は先に発生している強姦事件の扱いについては慎重だったといいます。

 

検察は物証がなかったために強姦事件で起訴するのは難しいとみて、5月5日にいったん柳原浩さんを処分保留で釈放することにしました。

 

が、同日のうちに氷見署は強姦事件の犯人として柳原浩さんを再逮捕。そして柳原さんを犯人にするために証拠を捏造したのです。

 

現場に残されたものが極めて少ない事件であったため、警察は犯人の下足痕に目をつけます。

 

この下足痕を残した靴さえ発見されれば、犯人が確定すると考えた捜査官は、異常な行動に出ました。

 

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被害者の証言から、犯人が履いていた靴は「星のマークが入ったバスケットシューズ」であることが浮かび上がってきます。

 

しかし、柳原浩さんはそのような靴は所持しておらず、家宅捜索をしても似たような靴は発見されませんでした。

 

にもかかわらず、捜査官が作成した事件報告書には「容疑者の車の後部座席に、コンバースに似た白っぽいスニーカーがあった」と書かれたのです。

 

実際にはこのような靴は存在しません。

 

強姦未遂事件で逮捕した時と同じように柳原浩さんを脅してありもしないスニーカーの存在をでっち上げ、そのうえで「犯行時に履いていたスニーカーは捨ててしまってない」と無理矢理に供述させたのです。

 

引き続き質問には肯定で答えろと脅された柳原浩さんは、「スニーカーは捨てたんだろ?」という捜査官の問いに、何の話をしているのかもわからないまま「はい」と答えてしまいました。

 

そして、さらに「捨てた場所まで案内しろ」と言われて、適当な空き地まで行って「ここに捨てました」と答えたそうです。

 

捜査官は空き地周辺を捜索しますが、当然ながら存在しない靴が出てくるはずもありません。

 

そこで今度は柳原浩さんに対して、「お前、靴を燃やしたな」と問いかけ、柳原さんが自宅の前で犯行時に履いていた靴を燃やしたという話をでっち上げたのです。

 

こうして強姦事件と強姦未遂事件の2件で柳原浩さんは起訴されることになります。

 

 

氷見事件の流れをわかりやすく説明⑤ 冤罪で懲役3年の判決が下される

 

柳原浩さんの第一審の初公判は、2002年7月10日に富山地裁高岡支部で開かれました。

 

柳原浩さんは、なぜか裁判時に起訴内容を全面的に認めて被害者に謝罪までしていました。

 

やってもいないことなのに、なぜ認めてしまうのか、ここが無実を訴える最後のチャンスではないかと不思議に感じられる行動ですが、実は裁判前にも柳原さんは警察に脅されていたのです。

 

再逮捕後、5月7日に富山地検高岡支部に送致された柳原浩さんは、警察だけではなく地検でも取り調べを受けていました。

 

そして取り調べにあたった検察官に対して「自分は本当にやっていない」「警察で話した内容は嘘だ」と必死に無実を訴えていたといいます。

 

その後、拘置所で勾留の手続きをするための質問が高岡簡易裁判所で行われたのですが、その際にも柳原浩さんは無実だ、冤罪ですと裁判官に訴えました。

 

高圧的な態度で一方的に話を進めてくる警察と違い、検察や裁判官は話を聞いてくれたために柳原浩さんは正直に話をしたそうです。

 

しかし、これを聞きつけた捜査官は激怒。簡易裁判所から戻ってきた柳原さんを「馬鹿野郎!」と怒鳴りつけて拘束し、無理矢理ペンを握らせて白紙に「今後、証言をひっくり返すようなことは絶対しません」と、氷見警察署長宛に上申書を書かせたのです。

 

このようなことがあったため、裁判で柳原浩さんは全面的に起訴内容を認めて、自供内容に間違いないと粛々と判決を待ちました。

 

そして下された判決は、懲役3年。その後も柳原浩さんは控訴しなかったため、冤罪での服役が決まってしまったのです。

 

 

弁護士の対応

 

この判決を聞いて、柳原さんの弁護士は何をしていたのだろうか?と思う方も多いでしょう。

 

柳原浩さんの弁護士は、最初の逮捕直後の4月17日に面会をしており、柳原さんの口から「無実だ」という訴えを聞いていたそうです。

 

しかし、その後も無実を証明するために行動を起こすでもなく、裁判の直前まで接見にも来なかったといいます。

 

そして裁判が始まると、減刑は求めたものの柳原浩さんが犯人だという前提で弁護を続けただけでした。

 

弁護についたのは国選弁護士で、もともと冤罪を防ぐために日弁連がもうけた当番弁護士制度で、柳原浩さんのもとを訪れていました。

 

 

氷見事件の不審点

 

 

唯一の物証とされ見られていた靴に関する情報が捏造されていたため、裁判は柳原浩さん有罪という結果になりました。

 

しかし、氷見事件では柳原浩さんの犯行を疑わしく思わせるような点が、実は複数あったのです。ここでは、その不審点について見ていきましょう。

 

 

反抗に用いられた凶器

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被害者の女性は2人とも、犯人が持っていたのは「ギザギザの刃がついたサバイバルナイフだった」と証言していました。

 

また、1月の強姦事件で犯人はチェーンのようなもので被害者女性の腕を拘束したとされます。

 

しかし、家宅捜索では柳原さん宅からはサバイバルナイフもチェーンも発見されませんでした。

 

どこの家庭にもあるような物ではなかったため、冤罪被害者の柳原浩さんが持っていないのは当然とも言えます。

 

が、捜査官はさらに事実を捻じ曲げて柳原さんを犯人に仕立て上げようとしました。柳原さん宅から持ってきた普通の果物ナイフが凶器だった、と捜査報告書を書き換えたのです。

 

チェーンに関しても、雪囲いに使っていたなんの変哲もない白いビニール紐が代わりに押収されることになります。

 

「お前はこれを使ったんだろ?」と捜査官に脅された柳原浩さんは、「はい」と答えるしかなく、凶器はサバイバルナイフとチェーンから、果物ナイフと白いビニール紐に置き換わってしまいました。

 

そして被害者の供述と食い違うことについては、「被害者は気が動転していて、記憶が曖昧になっている」として片付けたのです。

 

 

アリバイ

 

裁判中には明らかにされていませんでしたが、3月の強姦未遂事件が起きた時刻に柳原浩さんにはアリバイがありました。

 

事件発生時刻に柳原浩さんは自宅の固定電話から実の兄に電話をかけており、この通話記録がNTTにも残っていたのです。

 

通話時間は23分間にもおよび、柳原さんが犯人でないことを証明する有力なアリバイです。

 

しかし、捜査官は柳原浩さんの携帯電話、固定電話それぞれの通話記録を入手していたにもかかわらず、柳原さんにはアリバイがないと主張していました。

 

 

下足痕と柳原浩さんの足の大きさ

 

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裁判で犯人を裏付ける証拠として扱われた靴ですが、そもそも現場に残っている下足痕と、柳原浩さんの足の大きさはまったく合いませんでした。

 

下足痕の大きさは28〜28.5cm。一方で柳原浩さんの足は小さく、靴のサイズは24.5cmです。

 

24.5cmの靴の下足痕なら25〜25.5cm程度にしかなりませんし、すぐに逃走しなければいけない犯行時にブカブカの靴を履いてくるというもの考えにくいでしょう。

 

 

現場に残った体液

 

1月の強姦事件の現場には、犯人の体液も残っていました。この体液を鑑定した結果、犯人はA型ないしO型の可能性が高いという結論が出たそうです。

 

柳原浩さんの血液型はAB型。B型の反応はなかったとのことですから、鑑定結果を見ても柳原さんが犯人という説は疑わしく感じられます。

 

しかし、当時はまだDNA鑑定がメジャーではなかったため仕方のない部分はありますが、科学捜査研究所の担当者は「氷見警察署から依頼がなかった」という理由で再鑑定をせず、裁判でも体液の件には触れられませんでした。

 

 

氷見件の真犯人・大津栄一が逮捕される

 

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柳原浩さんが刑務所に入り、服役している最中にも氷見事件と同様の手口の強姦事件は引き続き発生していました。

 

そして2006年8月1日、鳥取県米子市内で発生した強制わいせつ事件の犯人として、大津栄一という男が逮捕されます。

 

逮捕後、大津栄一には複数の余罪があることが判明し、氷見事件の真犯人である可能性が浮上してしたのです。

 

富山県警が取り調べを行ったところ、大津栄一は自分が氷見事件の犯人であると認めます。

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大津栄一は日本各地を転々としながら、原子力発電所の作業員として生活していたそうです。そのため、富山、鳥取と離れた場所で強姦事件などを起こすことが可能でした。

 

また、氷見事件では警察が現場周辺に住む人物に容疑者を絞っていたために、住所不定であった大津栄一はまったく捜査線上に現れなかったのです。

 

自供を得た富山県警が確認したところ、大津栄一の足の大きさと氷見事件の下足痕はピッタリと合致し、現場に残された体液も鑑定の結果、大津のものである可能性が高いと判明。

 

こうして2007年の1月19日に、大津栄一が氷見事件の真犯人として逮捕されました。

 

逮捕後、大津栄一は未成年者ばかりを狙った14件の婦女暴行事件の犯人として起訴され、2007年11月14日に懲役25年の有罪判決を受けました。

 

 

氷見事件のその後① 富山県警が会見を開く

 

出典:https://www.youtube.com/

 

真犯人が逮捕された後、富山県警は2007年1月になってやっと柳原浩さんの無実を発表し、誤認逮捕の事実を認めました。

 

しかし、この会見前に冤罪被害者の柳原浩さんには警察からいっさい連絡はなく、柳原さんはTVで会見を見た知人から「警察が無実を認めたぞ」と教えてもらったそうです。

 

このことを知っても柳原浩さんはとくに何も感じず、「何を今更、としか思わなかった」と話しています。

 

 

氷見事件のその後② 再審で柳原浩さんの無罪が確定する

 

2007年4月12日、富山地方裁判所高岡支部は柳原浩さんの無実を確定するために、富山地検の訴えに応じて再審開始を決定しました。

 

すでに真犯人が捕まっており、警察も誤認逮捕を認めているわけですから、大津栄一の裁判が終わる前に開始するという異例さはあったものの、再審は形式的なものとも言えます。

 

しかし、柳原浩さんとしてはなぜ自分が冤罪被害者になったのか、強引な警察の取り調べは許されるものなのか、裁判で明らかにしてほしいという思いがありました。

 

柳原さんの実の兄も、「再審ではなぜ弟があんな目に遭わなければいけなかったのか、きちんと説明してほしい」とマスコミに話していました。

 

ところが柳原さんと弁護士、家族の要望が叶うことはなく、事件の取り調べを行った捜査官の証人尋問も認められないまま、10月10日に無罪判決を言い渡して再審は終わります。

 

判決で富山地裁高岡支部の裁判長は、以下のように柳原浩さんに語りかけました。

 

藤田裁判長は判決主文言い渡しの後、柳原さんに「無罪であるにもかかわらず誠に気の毒だと思っている。失われた時間は戻らないだろうが、これからの人生が充実したものとなるよう心から願っています」と語りかけた。

 

引用:富山の冤罪事件で再審無罪判決 柳原さんに裁判長「気の毒」

 

お気の毒というのは、第三者が被害者にかけるべき言葉であって、冤罪を生んだ当事者の裁判所が被害者にかける言葉ではありません。

 

裁判長のこの発言は、柳原浩さんに寄り添っているように見えて、単なる無責任な感想だという批判の声が法曹界からもあがったといいます。

 

最後まで誤った判決を下した当事者として裁判所側が謝罪することはなく、柳原さんにとっては苦々しい結果となりました。

 

 

氷見事件のその後③ 捜査を担当した警部補らは処分されず・実名は?

 

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氷見事件で柳原浩さんの取り調べの指揮をとっていたのは氷見署の警察官ではなく、富山県警捜査一課の警部補だったと報じられています。

 

前述のように、大津栄一は氷見での2件の事件の他にも似たうような事件を富山県内で起こしていました。

 

そのため富山県警から警部補が派遣されて、柳原浩さんの取り調べを行っていたのです。

 

この時の警部補とは、富山県警本部刑事部捜査第一係長の長能善揚氏です。

 

柳原浩さんがジャーナリストの鎌田慧氏とともに書き上げた、手記『「ごめんで」で済むなら警察はいらない』で、実名を明かしています。

 

しかし、富山県警は長能警部補らに処分を下さず、「捜査にミスはあったかもしれないが、処分するほどではない」と説明。

 

柳原浩さんも富山県警の幹部から「うちにもミスはあったけど、やってもないことを自供したあんたも悪い」などと暴言を吐かれたそうです。

 

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氷見事件のその後④ 柳原浩さんが国家賠償請求訴訟を起こす

 

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再審請求でも冤罪が生まれた背景が明かされなかったことに不満を抱いた柳原浩さんは、2009年5月14日に国家賠償請求訴訟を提訴しました。

 

この時には柳原浩さんを支える支援者も集まっており、金沢弁護士会所属の奥村回弁護士らが訴訟代理人となりました。

 

この訴訟のなかで、警察側は以下の点から捜査の違法性を認めました。

 

・「はい」しか言わせない確認的取り調べ、柳原さんが知らない情報も肯定するように誘導した

 

・被害者宅の図面の下書きをしたものを用意し、柳原さんになぞらせた

 

しかし、警察が違法捜査があったことを認めて裁判所が認定したところで、今度は検察が検察や警察の捜査には違法性はなく、冤罪の責任はないと主張しだしたのです。

 

起訴前に警察は、明らかに柳原浩さんの足のサイズと合わない下足痕を彼のものだと断定していました。

 

また、兄に電話をしていたという容易に裏が取れるアリバイがあったにもかかわらず、アリバイなしとしていました。

 

これらのことに対しても「サイズの合わない靴を履いていても不思議ではないと判断した」「電話の記録は見落としていただけ」と説明して、故意に柳原浩さんを犯人に仕立て上げたわけではないと主張したのです。

 

結果、裁判所もこの検察の主張の肩を持つことになります。

 

2015年3月23日、富山地裁は柳原浩さん側の主張を一部認めて県に1966万円を支払うように命じました。

 

しかし、国への請求は棄却され、県警への責任は問えるが検察への責任は問えないという判決が下されたのです。

 

阿多麻子裁判長は判決で「取り調べで虚偽の自白を作り出すなど、警察の捜査に違法性があった」と指摘。一方、検察官による起訴については「虚偽の自白と容易に認識できたとは認められず、合理的根拠に欠けていたとは言えない」との判断を示した。

 

引用:氷見冤罪で県に賠償命令 富山地裁、国への請求は棄却

 

 

氷見事件のその後⑤ 柳原浩さんが警部補らを刑事告発する

 

出典:https://www.youtube.com/

 

国家賠償請求訴訟の判決が下される前年の2014年11月に、柳原浩さんと支援者らは取り調べをした捜査官や検事ら4人を、組織ではなく個人で告発していました。

 

告発内容は、有印虚偽文書作成および行使と、偽証の容疑です。

 

奥村弁護士らは国家賠償請求訴訟を進めるなかで、おそらくこの訴訟では冤罪の背景は明らかにならないと考えるようになり、ならば関係者個人を訴えるしかないと考えたといいます。

 

奥村弁護士らには、冤罪を生んだ個人を処罰しなければ、いつまで経っても冤罪はなくならないという考えもあり、裁判に踏み切ったとそうです。

 

しかし、告発状を受け取った富山地検は4人を不起訴処分とします。

 

その理由は、有印虚偽文書作成および行使については時効となる7年が経過しており、罪に問えないということ。

 

さらに偽証についても「法廷での発言は被告人の本人尋問であり、証人の証言ではないため偽証にあたらない」などの理由で、不起訴としました。

 

 

氷見事件のその後⑥ 柳原浩さんの現在

 

出典:https://www.youtube.com/

 

有罪判決を受けた後、柳原浩さんは「自分は悪いことをしたのだ、だから罪を償うのは当然なのだ」と自己催眠をかけるようにして服役生活を送ったそうです。

 

無実なのになぜこんな場所にいるのかと考えると、生きていかれないほど辛かったと語っています。

 

警察や検察、裁判官からしたら、長い人生のうちの2年、冤罪でもっと長く服役する人もいるのだからいいではないかという気持ちもあるのかもしれません。

 

しかし、柳原浩さんは2年9ヶ月の服役中に実の父親を亡くしており、2005年1月13日に福井刑務所を借り出所して家に戻った時には、すでに葬儀も終わっていたといいます。

 

出所後は富山県で再就職活動を行なったものの、うまくいかずに25社連続で落ちる、兄弟とも国家賠償訴訟をめぐって対立し、絶縁状態になるなど柳原さんの生活は苦しいものでした。

 

一時期は故郷を捨てて上京し、生活保護を受けながら暮らしていたこともあったそうですが、現在は結婚して氷見市内で喫茶店を開業したとのことです。

 

2019年8月、埼玉弁護士会が主催する氷見事件シンポジウムに奥村弁護士とともに出席した柳原浩さんは、「足利事件の被害者の菅谷さんのように、冤罪を生んだ刑事を絶対に許さないという考えをどう思いますか?」という質問を受けて、以下のように話していました。

 

私も同様に違法取調をした警察官、取調官は今でも許すという思いは無いですけども、そういうことをばっかり言ってると、先に進めないので、許すとか許さないとかは終わったことだからという考えは持つようにしています。

 

引用:えん罪「富山事件」を振り返る

 

 

氷見事件についてのまとめ

 

今回は2002年に発生した強姦・強姦未遂事件と、それにともなって発生した冤罪事件、氷見事件について紹介しました。

 

犯行時刻のアリバイがあって物証がないにもかかわらず、無実の男性が刑務所に送られてしまったという氷見事件は、誰にとっても他人事ではなく、自分も冤罪被害者になるかもしれないという恐怖感を世間の人々に与えました。

 

警察や検察が頭を下げて謝罪するということはなく、誰も責任を取らないということにも憤りを感じます。

 

唯一の救いは冤罪被害者の柳原浩さんが新しい人生を歩まれているということです。これまで苦労された分も、柳原さんには穏やかな暮らしを送ってほしいと願うばかりです。

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