熊本地震ライオン脱走事件とは、2016年4月に起きた熊本地震の際にSNSに「動物園からライオンが逃げた」と写真付きでの嘘の投稿をして、社会を騒がせたデマ事件です。熊本地震ライオン脱走事件の動機や逮捕された犯人の現在について紹介します。
この記事の目次
熊本地震ライオン脱走事件の概要
2016年4月14日、21時半近くに熊本県内で最大震度7を確認する大地震が起きた直後に、Twitter(現在のX)に「動物園から逃げ出したライオンが街中を歩いている!」というデマツイートをした男性がいました。
投稿された画像は上のもので、画像に添えられた文章は以下のようなものでした。
「おいふざけんな、地震のせいでうちの近くの動物園からライオン放たれたんだ。熊本」
男性がこのツイートをした直後、ネットユーザーの多くはデマであることを指摘。画像は海外のサイトから拾って来たものか、合成したものではないかと非難されます。
ツイートには引用リツイートやリプライで「災害時に不謹慎すぎるだろ」「こういう悪ふざけは不快」といった意見が多く寄せられました。
ところが、話題になり始めるにつれて、「熊本の動物園からライオンが逃げた」というデマツイートを信じる人が多数発生し、「どうしよう」「怖い」という声とともに一気に拡散されることに。
さらに善意や面白半分で「熊本の動物園からライオンが逃げたそうです!拡散してください」とさらに拡散を訴える人まで現れるようになったのです。
こうして最終的に男性の元ツイートは2万件以上のリツイートを獲得し、X上ではお祭り騒ぎが起きました。
それだけならまだよかったのですが、震災の対応に追われる熊本市内にある熊本市動植物園には「おたくのライオンが逃げたのではないか?」といった問い合わせが100件以上も殺到し、警察にも多くの問い合わせが寄せられる事態に発展。
結局、同年の7月にデマを流した男性は偽計業務妨害の疑いで逮捕され、熊本地震ライオン脱走事件は幕を閉じました。
軽い気持ちで注目を集めようとネット上にデマを流し、逮捕者が出るというケースは犯行予告を除くと非常に珍しく、本事件はネットを使う上での教訓としても語り継がれています。
熊本地震ライオン脱走事件の犯人
熊本地震ライオン脱走事件の犯人は逮捕後にNHKによって氏名と顔が報道されています。
犯人の名前は佐藤一輝、当時20歳の会社員。神奈川県内在住で、下の写真が佐藤一輝の顔画像です。
Xへライオンの画像をアップした直後、他ユーザーから画像の違和感を指摘され、詳しい場所を布告するように突っ込まれた際には「熊本住みではない」と言い逃れをしていましたが、本当に被災地から離れた関東に住んでいたというわけです。
当時、熊本県内の警察には「ライオンが逃げたというのは本当ですか?避難したくても怖くて外に出られない」といった電話もあったといいます。
熊本地震は余震回数も多く、最初の揺れが発生してから人々は地震に警戒しながらの暮らしを強いられていました。
そのような状況でしたから、普段なら冷静に調べればデマとわかることでも信じてしまい、パニックに陥ってしまった人も少なくなかったのでしょう。
佐藤一輝は震災の影響がない安全な場所から、被災者の不安をあおるような悪質なデマを流したわけです。
そのため逮捕から実名、顔画像報道までの流れに対して「この程度のことで逮捕されるのか」と驚く声があった一方、「被災地の人々を追い詰めるような許せない行為。厳罰に処してほしい」「似たようなことをしでかす奴を出さないためにも、実名と顔の報道は必要だったと思う」との意見も多く見られました。
熊本地震ライオン脱走事件の画像の正体
熊本地震ライオン脱走事件がここまで大きな騒ぎになった原因は、犯人が街中をライオンが歩き回る画像を投稿したためです。
文章だけなら相手にする人も少なかったのでしょうが、画像があることで信じてしまった人もいたと思われます。
当初は合成ではないかと言われたこの画像ですが、後に南アフリカ最大の都市であるヨハネスブルグで撮影されたことが判明しており、佐藤一輝は「ネットで拾った」と供述しています。
Xにアップされた画像の背景を拡大すると縁石に「JORISSEN ST」と書いてあるのが確認でき、これはヨハネスブルグ南部のブルームフォンテンにある実在の通りです。
ヨハネスブルグといえば世界でも屈指の危険な街、世界一の犯罪多発都市で知られますから、このライオンも何らかの事件に乗じて市街地をうろついていたのだろうかと思いきや、この画像は現地で公開された映画のワンシーンだったそうです。
ライオン自体も野生の個体ではなく、ヨハネスブルグ近郊のランセリアという街にある南アフリカ屈指の観光地「ライオン&サファリパーク」で飼育されていたコロンブスというライオンでした。
コロンブスは特別な訓練を受けたライオンで、CMや映画などの出演依頼を複数こなしていたそうです。
2018年には19歳という高齢で天寿をまっとうしたとのことですが、熊本地震ライオン脱走事件で悪用されてしまった写真を撮影し、Instagramにアップした訓練士の方によると騒動はヨハネスブルグにまで飛び火していたといいます。
「ヨハネスブルグではライオンが市街地に出没する」「野生のライオンが迷い込んでくることがあるらしい」と勘違いする人も多かったらしく、写真について訓練士の方に地元メディアから問い合わせが相次いだとのことです。
訓練士の方も上司の方も自分たちがトレーニングをしていたコロンブスの写真が遠く離れた国でフェイクニュースとして悪用され、拡散されたことについて「支持できない」と否定的な見解を示していたとされます。
熊本地震ライオン脱走事件の動機
逮捕後、佐藤一輝はライオンが脱走したというデマのツイートをした動機について「面白いと思ってやった」「悪ふざけのつもりだった」と供述していたといいます。
当時のツイートを見る限り、アカウントさえ消せばデマを流した責任は問われないと思っていた様子です。
理解しがたいと考える人が大半でしょうし、実際に熊本地震で被災した方や家族や友人の安否に気をもんだ方、過去に災害に苦しめられた方からすると怒り心頭に発するような動機でしょう。
しかし、当時はX上でも「ライオン怖いwwくまモンに助けてもらわないとww」「窓からライオン見えた!」といったように元ツイートに乗っかって悪ふざけをするユーザーが複数いたのです。
そのため佐藤一輝の逮捕が報じられた際には「一緒になって騒いで、悪意のある拡散をした奴らも同罪ではないのか」という指摘もされました。
熊本地震ライオン脱走事件のその後① 逮捕された犯人の現在
熊本地震ライオン脱走事件の犯人である佐藤一輝は、逮捕後の2017年3月21日に不起訴処分になったと報じられています。
起訴しなかった理由について熊本地検は「諸般の事情を考えて起訴は見送ることとした」と説明するにとどめていましたが、理由がなんであれ不起訴となったことから、これ以降は報道で犯人の実名は伏せられるようになりました。
犯人が不起訴になったことについて、ネット上では「甘い」「こういうことをしても、罪に輪ならないんだっていう前例になってしまったのでは?」といった指摘も相次ぎました。
ただ、佐藤一輝は不起訴といっても嫌疑不十分で無罪放免という処分をされたわけではなく、確かに罪は犯したけれど、起訴するほどではないという「起訴猶予」の処分を受けたと報道されています。
熊本地震発生直後にライオンが逃げたという虚偽の内容をインターネットに投稿し、偽計業務妨害容疑で逮捕された神奈川県の男性(21)について、熊本地検は2017年3月22日、男性を不起訴処分(起訴猶予)としたことを発表した。各メディアが報じた。
起訴猶予になった場合、前科はつかないまでも前歴というものがつき、「こいつは以前にも起訴されなかっただけで犯罪を犯している」という記録が保管されることとなります。
したがって、今後もし別件で逮捕されるようなことがあれば初犯よりも厳しい判決を下される可能性が出てくるのです。
さらに逮捕時の佐藤一輝は会社員でしたが、おそらく逮捕されたことが原因で勤務先を解雇された可能性も高いのではないかと思われます。
もちろん前科がついたわけではないので、就職活動で逮捕されたことを履歴書に書く必要はありません。
しかし実名と顔が報道されてしまったことを考えると、裁判で裁かれなくとも社会的な制裁は受けたのではないかと思われます。
熊本地震ライオン脱走事件のその後② 熊本市動植物園が騒動の背景を明かす
熊本地震ライオン脱走事件で、ライオンが逃げたのはこの動物園ではないのか?との疑惑を向けられたのが、熊本市内にあり、ライオンなどの大型肉食獣を飼育していた熊本市動植物園でした。
最初の揺れが熊本を襲った時、熊本市動植物園の職員の方々は真っ先に大型肉食獣の様子を危惧して、万が一、脱走をしていた時のことを考えて麻酔を用意してライオンやユキヒョウ、トラなどの猛獣を確認しに行ったそうです。
そしてどの獣舎も損傷なく、猛獣たちも寝ていて怪我がないことを確認して、ほかの獣舎を巡回していた最中に、上野動物園で勤務している知人から「今、ネットでこんな写真が騒ぎになってる」と連絡が来て、自分たちの知らないところでデマが流れていることを知ったといいます。
今しがた見てきたばかりなのですから、熊本市動植物園からライオンが逃げ出しているわけがありません。
しかし、この後から園の事務室には問い合わせの電話が殺到。4月14日の閉園後に勤務をしていた職員の方々は、動物の安否確認、餌と水の確保といった急務に追われながら、問い合わせ対応にも人員と時間を割くことになってしまったのです。
熊本地震では最初の揺れが起きた14日から3日に渡って震度7が2回、震度6強が2回、震度6弱が3回と立て続けに大きな地震が発生しました。
そのため停電や獣舎の崩壊などが進み、園側は苦渋の判断でライオンなどの猛獣4種5頭を県内の動物園に預かってもらうという判断をしました。
頻繁に飼育環境を変えることは動物に大きなストレスを与えることから、この時、飼育員の方々は「建前は預かりになるけれど、もう熊本市動植物園には戻ってこないかもしれない」と覚悟をしていたそうです。
結局、2018年の10月、震災から2年半が経ってやっと預かってもらっていた猛獣を再び引き取る準備が整い、ライオンも再び熊本市動植物園に戻ってきました。
2023年1月には熊本地震発生後、熊本市動植物園がどうやって復旧していったのかを描いた絵本『あしたの動物園』も出版されています。
熊本地震ライオン脱走事件のその後③ 大阪の地震でも同様のデマが流れる
熊本地震ライオン脱走事件の犯人が逮捕され、不起訴となった翌年の2018年6月、今度は大阪で震度6弱の地震が起きた際に「地震で逃げ出したシマウマがいる」という内容のツイートがされました。
この画像は愛知と岐阜の県境に位置する三国ウエスト農場という乗馬クラブから2016年にシマウマが脱走した時のもので、犯人は毎日新聞の報道写真を流用したとされています。
デマツイートをした犯人はこの直後にアカウントを凍結されており、逮捕されたといった報道はありませんでした。
猛獣ではなく草食動物が逃げたというデマであったこと、当時、大阪府内でシマウマを飼育していたのは天王寺動物園だけであったため、大阪府民が嘘だと見抜きやすかったことなどが理由で逮捕されなかったのかもしれません。
熊本地震ライオン脱走事件についてのまとめ
今回は2016年4月に発生した熊本地震の最中に流れたデマ・熊本地震ライオン脱走事件について紹介しました。
この事件の犯人が逮捕までされて同様のデマが流れる抑止になるのではないかと期待されたものの、残念ながら大きな災害が起きると必ずといっていいほどSNSでデマが拡散されているのを見かけます。
昨今ではフェイク画像や動画もより巧妙になっていますから、パニック時にも騙されたり流されたりすることのないよう、情報の真偽を見極めたいですね。