スマートデイズが展開していた、女性専用シェアハウス・かぼちゃの馬車。サブリース事業で使われていた物件で、投資家への家賃不払いで事件となりました。スルガ銀行との関係、事件の原因、菅澤聡社長のその後、現在などかぼちゃの馬車事件についてまとめます。
この記事の目次
かぼちゃの馬車とは
かぼちゃの馬車とは、株式会社スマートデイズが運営していたシェアハウス物件のブランドです。
女性専用で家賃は管理費込みで平均月4万円と格安で、冷蔵庫などの家電や家具も備え付けられており、キャッチコピーは「トランクひとつで即入居」。敷金、礼金、仲介手数料のすべてが無料で、ターゲットは地方から上京してくる若い女性でした。
しかし、インターネット通信料や光熱費も4万円の家賃に含まれているという格安物件である一方、5畳未満の個室が大半で、賃料を1平方メートルあたりで換算すると、かぼちゃの馬車のシェアハウスは周辺の類似物件よりも割高なことが判明しています。
かぼちゃの馬車はサブリース用の物件だった
かぼちゃの馬車はスマートデイズがサブリース事業として展開していた物件で、物件オーナーはスマートデイズではなく、出資をした不動産投資家です。
スマートデイズがおこなっていたサブリース契約は、以下のようなものでした。
かぼちゃの馬車サブリースの流れ
・スマートデイズがかぼちゃの馬車に出資したい投資家を募る
・投資家が集まったら物件を建てる
・スマートデイズと投資家の間でサブリース契約を結ぶ
・スマートデイズがかぼちゃの馬車を一括借上げし、入居者の募集や物件の管理をする
・毎月、投資家に手数料を引いた賃料が支払われる
・投資家は賃料のなかから、かぼちゃの馬車建築時に借り入れたローンを支払う
物件の建築費用を投資家たちが負担しているので、所有権も投資家たちにあるというわけです。
サブリース契約後、スマートデイズは投資家たちに30年のあいだ家賃収入を渡すことを保証しており、極端な話ですが入居者がゼロだったとしても家賃は支払われる約束でした。
つまり、物件の建築費用を出資すれば何もせずに毎月お金が振り込まれるという契約です。
スマートデイズは、投資希望者に向けた説明会で「頭金なしでも投資可能で、利回りは8%になる」、「『家賃0円・空室有』でも儲かる」と、かぼちゃの馬車のオーナーになるメリットを説明していました。
かぼちゃの馬車事件の発端
30年間の家賃保証を約束していたスマートデイズですが、2017年10月になると投資家たちに賃料の減額請求をしていました。
賃料の減額請求自体は、借地借家法32条1項でも認められているサブリース事業者の権利になるため、違法行為ではありません。(もちろん、オーナーにはこれを拒否する権利も認められています)。
しかし2018年に入ると投資家たちへの家賃支払いが本格的に滞るようになり、2018年3月末の時点でのスマートデイズの負債総額は60億3,523万円に膨れ上がります。
その後も家賃を支払うことができず、スマートデイズは2018年4月9日に東京地裁に民事再生法の適用を申請。同日のうちに監督命令を受けました。
しかし4月18日には申請が棄却され、5月15日には破産手続きに移行しています。なお、破産管財人が算出した負債総額は、およそ1,053億円だったとのことです。
一方、スマートデイズから家賃の支払いがなくても、投資家たちは銀行にローンを支払わなければなりません。
かぼちゃの馬車に投資した人には副業感覚のサラリーマンが多かったそうで、現金で投資した人は少なかったとされます。
物件は1棟建設するのにおよそ1億円がかかっていたとされ、投資家の大半はスルガ銀行で融資を受けていました。ローンを返済できなくなった投資家のなかには、自己破産を選んだ人さえいたといいます。
かぼちゃの馬車事件の問題点① 工事会社からのキックバック
かぼちゃの馬車の物件の建築費用が1億円というのは、不動産の規模や性能、立地などから見て、かなり割高といえます。
なぜこのような高額な建築費用が発生したのかというと、スマートデイズが建築会社から多額のキックバックを受け取っていたからです。
スマートデイズはかぼちゃの馬車の建築を建築会社に発注し、建築費を支払ったあと、コンサルティング費用などの名目で支払った金額の一部を回収していました。この行為をキックバックと呼び、健全な商行為にあたるため違法性はありません。
同様のケースで発注元の会社が建築会社に求めるキックバックは、建築費の2〜3%とされます。しかし、スマートデイズはなんと建築会社に建築費の50%ものキックバックを求めていたのです。
建築費の半分をスマートデイズに返すとなると、建築会社も赤字になってしまいます。そのため、建築費自体を値上げするほかありませんでした。
建築費を値上げされても、費用を負担するのは投資家たちのため、スマートデイズはリスクや不利益を負いません。スマートデイズと建築会社は安い物件を法外な価格で売買し、そのしわ寄せをすべて投資家に押し付けていたのです。
かぼちゃの馬車の建築費用は実際には1棟6000万円程度だったにもかかわらず、投資家には1億円という価格が提示されていたとの話もあります。
かぼちゃの馬車事件の問題点② スルガ銀行とスマートデイズの関係
2014年以降、かぼちゃの馬車の投資家たちへの融資は、スルガ銀行がほぼ専任で担当していました。スマートデイズが投資希望者たちにスルガ銀行での借り入れを斡旋していたのです。
通常であれば建物の耐久年数を超す長期融資や、投資経験の浅い個人投資家への融資の審査は厳しくなり、借り入れを断られる可能性が高くなります。銀行側にも回収不能のリスクが生じるからです。
また、そもそも投資用の物件を購入する際には物件価格の1〜2割を頭金として納入すること、そして購入物件の金額は年収の6〜8倍以内に収めることといったルールがあります。
しかし、前述のようにスマートデイズは「頭金なしでも投資可能」と投資家を募っており、銀行のローン審査を通すためには何らかの不正をする必要がありました。
そこでスマートデイズは融資希望者の源泉徴収票や資産を改ざん、契約書を偽造するなどして、スルガ銀行に必要書類を提出していました。
スルガ銀行側もこの不正に気づいていたにもかかわらず、黙認して融資を許可していたのです。
かぼちゃの馬車事件の原因
物件を1棟建築すればキックバックで数千円が手に入るため、スマートデイズは出資者を募ってはシェアハウスを建て、そのキックバックを家賃として投資家に還元するという自転車操業の状態でした。
このようなビジネスを続けるためには数多くの投資家が必要であり、鍵となるのが不正融資を黙認してくれるスルガ銀行との関係でした。
しかし、スマートデイズとスルガ銀行の蜜月は長くは続かなかったのです。スルガ銀行はスマートデイズ以外にも、ゴールデンゲイン、SAKT Investment Partners(以下、サクト)といった会社からもサブリース事業の融資依頼を受けていました。
ところが2017年に入ってサクトの経営が傾き始めると、スルガ銀行はシェアハウスのサブリース事業への融資を制限するようになります。
融資が受けられないとスマートデイズは新規の投資家を募ることもできず、新しい物件も建てられなくなります。物件を建てられなくなると建築会社からのキックバックという収入が得られないため、投資家たちへの家賃も支払えません。
こうして負債だけが膨れ上がっていき、スマートデイズの経営は立ち行かなくなり、かぼちゃの馬車事件が起きたのです。
もともと入居者希望者が少なかったという問題も
仮に新規の物件が建てられなくても現在建っているシェアハウスに入居者がいれば、そこから収入が得られたはずです。しかし、かぼちゃの馬車の物件は近隣住民が「ここ、人の気配がないけれど誰か住んでいるんだろうか?」と疑問に感じるほど、空き部屋が目立つ状態でした。
実はかぼちゃの馬車の物件には「住民共用のリビング」がありません。共用のリビングがないと、大手シェアハウス専門募集サイトでは入居募集が掲載できないため、シェアハウスを探している人に存在を知られなかったのではないか?とも指摘されています。
また、ターゲットが「地方から1人で上京してきた若い女性」となると、入居希望者も「できればシェアハウスで友達を作りたい」「シェアメイトと仲良くなって、安全に楽しく暮らしたい」という希望を持っているはずです。
共用のリビングという交流の場がないため、壁を挟んだ隣にどのような人が住んでいるのかわからないという点も、かぼちゃの馬車の入居希望者が少なかった理由と考えられます。
かぼちゃの馬車のその後
かぼちゃの馬車事件が起きたあと、被害者となった投資家によって被害弁護団が結成されました。そしてスルガ銀行に対して融資返済に関する調停が申し立てられました。
ここではかぼちゃの馬車事件に関係したスルガ銀行や被害者となった投資家たち、そして運営不能になった元・かぼちゃの馬車物件のその後について紹介していきます。
スルガ銀行が行政処分を受ける
2018年3月16日、金融庁はスルガ銀行に対して報告徴求命令を出し、シェアハウスのサブリース事業への融資実態の解明、報告を命じました。
そして4月にはスルガ銀行の役員が不正融資に関与していた疑いがあるとして、緊急の立ち入り調査を開始。
立ち入り調査があった翌月の5月15日にスルガ銀行は「相当数の社員が、融資の審査時に通帳偽造を含む不正があったことを認識していた」と発表し、弁護士など中立な立場の専門家から結成される第三者委員会を設置しました。
また第三者委員会の設置とともに、スルガ銀行が総額で2,035億円をシェアハウスのサブリース事業に融資していたことが発表されています。(うち、スマートデイズ関連の融資は1,000億円にのぼる)。
さらに9月7日に公表された第三者委員会の報告書では、以下のようなことが明らかになりました。
・スマートデイズなど仲介業者と結託して、融資希望者の預金通帳の改竄などを常態的におこなっていた
・不正融資の見返りとして、スマートデイズなどの仲介業者から接待を受けていた
・投資用物件の価値が割高に設定されていることを知りながら黙認していた
・投資用物件の価値を現実よりも高くみせかけるため、収益計画を改ざんしていた
・不正には行員のみならず、支店長や役員も複数名関与していた
報告書の公表を受けてスルガ銀行は会見を開き、岡野光喜会長兼CEO、米山明広社長ら3人の代表取締役を含む役員合計5名が退任する旨を発表しました。なお、この発表を受けてスルガ銀行の株価は9月6日までにピーク時の5分の1にまで落ち込んだとされます。
そしてこの報告書の内容を重く受け止めた金融庁により、スルガ銀行は2018年10月12日から2019年10月12日までの6ヶ月間、新規の不動産投資用の融資受付停止などをふくむ、一部業務の停止命令処分を受けました。
被害者たちの借金が帳消しになる
かぼちゃの馬車事件で被害を受けた投資家は700人以上いたとされ、なかにはローンの返済に窮して自己破産を選んだ人もいました。
しかし、全員が泣き寝入りを選んだわけではなく、2018年2月には247名の被害者が集まり被害弁護団も結成され、スルガ銀行に対して問題の早期解決を求める調停を申し立てをしています。
そして2020年3月25日、スルガ銀行と被害弁護団は下記のような方法で問題解決の合意を得たのです。
・スルガ銀行は、シェアハウス物件の投資家に対する債権を投資ファンドなどに売却する
・投資家たちは新しい債権者に自分が所有しているシェアハウスの土地と建物を物納する
・シェアハウスの土地と建物の価格と、債務を相殺する
・相殺後も債務が残る場合は、スルガ銀行が「解決金」として負担する
前述のとおり、かぼちゃの馬車の物件は実際の価格よりもかなり高額に設定されていたため、投資家が土地と建物を物納しても多額の不足が生じます。
そのためスルガ銀行は、440億円もの解決金を負うことになりました。
こうして被害者たちはローンを返済せずに済んだため、この解決案は「令和の徳政令」とも呼ばれました。
競売にかけられた物件も
かぼちゃの馬車の物件は東京都内を中心に485件にあったとされます。(スマートデイズの経営が破綻する直前の2017年11月時点の情報)
事件後にもかぼちゃの馬車のシェアハウスであることを示すエンブレムを外して、そのまま賃貸にだしている物件や、グループホームや宿舎として使われている物件もありますが、競売にかけられた物件も少なくありません。
2021年に入ると東京都足立区にある元・かぼちゃの馬車の物件10棟が競売にかけられ、そのうち1棟が2,773万円で落札されています。
なお、競売にかけられた二階建ての物件は、新築時には土地と建物を含めて約8,100万円以上で取引されていました。
ボンビーガールで出てきた物件徒歩5分くらいなんすけど
かぼちゃの馬車です。アレ pic.twitter.com/NPJYrpq4t5
— プリ充 (@PURIJYU) February 5, 2019
また、2019年8月16日に放送された「幸せ!ボンビーガール」内で紹介された足立区竹ノ塚の物件が、かぼちゃの馬車のシェアハウスだと話題になったこともありました。
しかし視聴者からはあまり好意的な反応はなく、かぼちゃの馬車を知らない人からは「間取りがおかしい、というか狭すぎない?」「光熱費と通信費込みで3万7000円ってどういうこと?事故物件かな」という疑問の声があがっています。
またTwitterでは、不動産投資家からは「これ、かぼちゃの馬車だよね。この立地、この間取り、収益が出るとは思えない」と厳しい意見が寄せられていました。
かぼちゃの馬車の運営会社・スマートデイズの会社概要
スマートデイズの前身である株式会社スマートライフは、2012年8月に設立された不動産会社です。
会社の住所は東京都中央区銀座1丁目7番10号で、設立当初は「脱法シェアハウス」の運営を手掛けていました。
脱法シェアハウスとは防火関係規定などで建築基準法違反が疑われるシェアハウスのことで、以下のような特徴が見られます。
脱法シェアハウスの特徴
・個室が狭い、天井が低い、窓がないなど住居としての基準を満たしていない
・シェアハウスとして貸し出しておらず、24時間利用可能なレンタルオフィスなどと謳っている
・共同住宅とは思えない、生活が困難な構造をしている
かぼちゃの馬車ブランドを開始したのは2014年5月からで、2016年5月からは男性専用のシェアハウス「ステップクラウド」もリリースしています。
そして2017年にマーケティング会社の株式会社オーシャナイズと資本業務提携契約を締結をし、同年10月からスマートデイズという社名に変更しました。
破産手続きが開始されたことにより、2021年5月19日に会社の法人格は消滅しています。
かぼちゃの馬車の運営会社・スマートデイズの社長の現在
スマートデイズの菅澤聡社長は、2018年1月にかぼちゃの馬車に出資した投資家に向けた説明会を開いており、「私も騙されたんです、皆さんと同じ被害者です」「必ず再建を図ります」などと約束をしておきながら、その僅か3ヶ月後には民事再生手続きを請求し、大きな批判を呼びました。
かぼちゃの馬車事件が起きた後には辞職し、後任は資本業務提携契約をしていた株式会社オーシャナイズの取締役である赤間健太氏が引き受けています。
「週刊FLASH」 2022年4月12日号によると菅澤元社長は現在、姓を「松本」に変えており、フリーアナウンサーの妻と、港区内の超高級賃貸マンションで暮らしているといいます。
また、2019年に菅澤元社長は山口県にある学校法人山口松陰学園を買収し、2021年からは山口松陰学園の理事長になっているとのことです。
山口松陰学園は通信制の松陰高校を運営しており、同校は西村博之氏や本田圭佑氏を招いて授業をおこなうなど、ユニークな取組が注目されてきた学校法人です。
菅澤元社長が、この山口松陰学園の理事長の席についた過程や、学園の買収についても不透明な点があると指摘されています。学園の関係者からも、以下のように証言がありました。
「買収金額は5億円といわれていますが、学校法人は株を発行していないため、買収の方法が企業とは異なります。多くは、学校法人のオーナーにお金を払い、買収側が新たな理事会を構成するのですが、菅澤氏が誰にお金を払ったのかは表に出ていません。菅澤氏が理事長に就いたのは、買収後1年以上が過ぎた昨年2月のことですが、『松本聡』と改名していたため、最近まで “かぼちゃの馬車の菅澤” だとわからなかったのです」
これに対して菅澤元社長の弁護士からは「学校法人である山口松陰学園を買収するということはない。買収の事実はない」という答弁があったとされます。
しかし、菅澤元社長の前任の理事長であった伊庭野基明氏は「菅澤氏が松陰学園を買収した後、理事長に就いてくれないかと打診されて2021年まで理事長を務めた」と証言しており、はっきりと「菅澤氏が松陰学園を買収した」と言っているのです。
一般的にかつて社会的、道義的に問題を起こした人であっても学校法人の理事長になることは可能ですが、スマートデイズの経営破綻時の対応を見る限り、菅澤氏が教育者に適していると感じる人は少ないでしょう。
「名前を変えて履歴を隠蔽するような人に、大切な子どもの教育を頼もうとは思えない」「そもそも買収資金はどこから出てきたのか」と、世間の反応は厳しめです。
かぼちゃの馬車の物件内部はどのようなものだったのか
割高、販売価格を水増しと指摘されたかぼちゃの馬車のシェアハウスは、どのような間取りで、内装はどうなっていたのでしょうか。
上の動画では一級建築士で特定非営利活動法人建築Gメンの会の理事長を務める大川照夫氏が、かつてかぼちゃの馬車ブランドとして貸し出されていたシェアハウスを訪れ、建築物としての問題点を非常にわかりやすく解説しています。
問題になったかぼちゃの馬車の物件とは結局どのようなものだったのだろう?一度室内を見てみたい、という方には視聴をおすすめしたい内容です。
かぼちゃの馬車についてのまとめ
この記事では2018年に起きたかぼちゃの馬車事件の概要と、事件が起きた原因、物件の問題点や社長の現在などについて紹介しました。
賃貸物件に投資をする際には自ら物件に足を運び、「自分が住みたいと思うほど魅力的な物件かどうか」を確かめなければいけない、かぼちゃの馬車に投資した人はそれを怠ってしまったのではないか、と指摘する声もあります。
多額の投資話を聞く際にはデメリットをしっかり理解し、こんなにうまい話があるのだろうか?騙されているのではないか?と疑う気持ちを忘れないようにしたいですね。