大地震が起こる前に前兆として現れるという特殊な形の雲を地震雲と言いますが、科学的根拠はあるのでしょうか?地震雲はどんな雲か、その特徴や形、種類の分類とそれぞれの写真、科学的根拠の有無や東日本大震災での地震雲、デマの危険性をまとめました。
この記事の目次
地震雲は地震の前に現れる雲?
地震雲とは、大地震が起こる前に現れるいつもとは違う奇妙な形や珍しい形、珍しい色をした雲のことです。
2011年の東日本大震災や2023年のトルコ・シリア地震、2024年の能登半島地震でも、「地震雲が出ていた」、「地震の少し前に観測されたあの雲が地震雲だった」などとSNSで話題になりました。
「大地震の前に地震雲が観測されているなら、大地震の予測は可能なのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、地震雲に科学的根拠はなく、「雲は地震の前兆にならない」というのが科学
的な見解になっています。
地震雲はどんな雲?特徴や形と写真を紹介
地震雲と呼ばれている雲は、どんな雲なのでしょうか?
実は、地震雲は「この形の雲」という定義はありません。あくまでも、いつもとは違うような珍しい形・奇妙な形が地震雲と呼ばれているだけなので、地震雲の定義はありません。
地震雲と言われることが多い雲の特徴や形をご紹介します。
ここでご紹介する地震雲の形は、あくまでも「地震雲と呼ばれることがある雲の形」です。「地震雲がある」とか「地震雲の形はこれ」と断言しているわけではありません。
まっすぐ一直線に伸びた雲(飛行機雲)
地震雲と呼ばれる雲の中で最も多いのは、まっすぐ一直線に伸びた雲です。一般的には飛行機雲と呼ばれていますが、この飛行機雲が少し変わった形になると、「地震雲では?」と呼ばれることが多いです。
出典:kameda.com
この飛行機雲の長さが長いと、大地震の発生が近く、また太いとそれだけ地震の震度・揺れが大きいと言われています。
SNSなどを見ていると、「地震雲では?」と報告されている雲の中では、この飛行機雲のような雲の形が最も多いです。
うろこのような雲(波状雲)
空にうろこのように波打った形の雲が出ることがありますが、この波状雲も地震雲と呼ばれることがあります。波状雲は波の形が大きければ大きいほど、大きな地震になると言われています。
出典:diamond.jp
波状雲はそこまで珍しくない形の雲ですが、夕やけなどで赤や黄色に染まったりすると、不気味な感じがします。
放射線状雲
複数本の直線の長い雲が1ヶ所から放射線状に伸びていることがありますが、この放射線状の雲も地震雲と呼ばれることがあります。この放射線状の雲は、「中心部が震源で、雲が長く太いほど大きな地震になる」と言われることがあります。
断層型雲
出典:nksj.info
断層型の雲は、雲と空の境目がはっきり一直線になっている形の雲です。厚い雲と青い空の境界線がはっきり直線になっていて、不穏・不気味さを感じる人が多いようです。
この断層型の雲の雲と空の境界線上にプレートの境界や活断層があり、大地震が起こりやすいとも言われています。
つるし雲
つるし雲は中心からグルグルと縁を描いたように見える雲で、レンズ雲とも呼ばれています。
日常ではなかなか見る機会がなく、珍しい形で不穏な雰囲気があることから、地震雲と呼ばれることがあります。このつるし雲は、2023年のトルコ・シリア地震の前に現れたと言われています。
こちらが、トルコ・シリア地震前に観測された地震雲とされる雲です。
確かに不気味で、「何か不吉な予兆かも」、「大地震が起こるのかも」と不安になるのは仕方がない形の雲ですね。
竜巻型の雲
まるで竜巻のように下から上に渦巻き状になって昇っていくように見える雲も、地震雲と言われています。
こちらは1995年1月の阪神淡路大震災の前に現れました。
この阪神淡路大震災の前に観測された地震雲は、震源地付近のすぐ上で観測されたとのこと。
阪神・淡路大震災では、関西地域の住民から前兆現象に関する目撃談が多数寄せられた。その中で注目を集めたのが、1週間前の1月9日夕方に震源付近の明石海峡大橋の直上で撮影された、竜巻上の“地震雲”の写真だった。
大地震の1週間前に震源地のすぐ上で不思議な形の雲が観測されたら、「あの時の雲が地震雲だったのか」と思う人は少なくないでしょう。
地震雲はどんな雲?有識者による種類分類
出典:webun.jp
地震雲とはどのような雲なのかを分類した学者や有識者もいます。地震雲を研究し続けている有識者・学者・研究者による分類を見ていきましょう。
鍵田忠三郎による種類分類
「地震雲の祖」とも言える鍵田忠三郎氏は、地震雲を次のような種類に分類しました。
・レンズ状
・点状
・綿状(白旗雲)
・縄状の低い雲
・白蛇状
・断層状
レンズ状や断層状など前述の地震雲の形と共通する部分はありますね。
上出孝之による種類分類
1982年ごろから地震雲に関心を持つようになり、それからずっと地震雲に関する研究をしている上出孝之氏は、地震雲の種類を次のように分類しました。
・断層型
・肋骨状
・放射状
・弓状
・さや豆状
・波紋型
・稲穂型
こちらも前述の地震雲の共通点が多い分類であることがわかります。
地震雲の歴史
地震雲の歴史は古く、古代インドでも地震雲の概念があり、「地震の1週間前に特異な形の雲が現れ大雨が降る」と記した書物があります。また、古代中国やイタリアでも、地震の前兆の1つとして珍しい雲が挙げられることがありました。
日本では江戸時代中期の書物に「太陽の近くに現れる雲で雷雨や大雨がなければ、地震が起こる」と記されているものがあります。
日本で本格的に地震雲が注目されるようになったのは、1948年の福井地震からです。鍵田忠三郎が戦時中に雲と地震の関係に気づき、福井地震の発生を2日前に予言して的中させました。
鍵田忠三郎はその3年後の1951年に奈良県議会議員に初当選、さらに1967年には奈良市長に当選します。奈良市長時代にも地震雲の研究に基づき、地震を何度も的中させ「地震雲市長」と呼ばれることもありました。
1980年には「これが地震雲だ: 雲はウソをつかない」、1983年には「これが地震雲だ 決定版: 雲はあなたを大地震から救ってくれる」を出版します。そして、1983年には衆議院議員まで上り詰めます。
彼は1967~81年に奈良市長を務め,その間に公衆の面前で何回も地震を予知して的中させ,観天望気による地震予知の経験を著述して1980年に出版した(九州大学の真鍋大覚が監修).つまり「地震雲」という言葉は鍵田が創始し,彼の出世とともに日本社会に広まった.
鍵田忠三郎氏は阪神淡路大震災の約3ヶ月前に死去しますが、その後は上出孝之氏などが地震雲の研究を続けています。
そして、「地震雲」という言葉を一般的に広めたことに役立ったツールがSNSでしょう。東日本大震災以降、「地震雲」という言葉は一般市民にもSNSなどを通じて急速に広まり、現在は空に珍しい雲があると、「地震雲?」とSNSに投稿する人が増えました。
地震雲に科学的根拠はない
地震雲は地震の前兆として現れる珍しい形をした雲ですが、前述のように科学的根拠はありません。地震雲は科学的には認められていないものです。
気象庁のホームページにも地震雲について、「科学的な説明がなされていない」、つまり科学的な根拠はないと記載されています。
大気は地形の影響を受けますが、地震の影響を受ける科学的なメカニズムは説明できていません。「地震雲」が無いと言いきるのは難しいですが、仮に「地震雲」があるとしても、「地震雲」とはどのような雲で、地震とどのような関係で現れるのか、科学的な説明がなされていない状態です。
「科学的根拠がない」と言われても、実際に地震の前に珍しい形の雲が観測されているじゃないか!と思う人もいると思います。地震雲は本当に科学的根拠がないのでしょうか。
地震雲は宏観異常現象
地震雲は宏観異常現象と言われています。宏観異常現象とは、人間の知覚に基づいた地震の前兆現象です。機器では測定できない地震の前兆とされる現象ですね。動物の異常行動や地鳴り、発光現象などが、この宏観異常現象に分類されています。
地震雲は前述の通り、いろいろな形があります。「これが地震雲だ!」と明確に定義できる形はなく、ただ単に「奇妙な形の雲」、「珍しい形の雲」というだけになります。
機器を用いて数値的に説明できない、科学的に実証することができないものなんですね。
地下と大気の関連がない
地震雲は空に発生するものですが、地震は地下で起こるものです。現時点では、地下で起こる現象が大気中に影響を与えるとは考えられていません。
地下の現象である地震と、大気中の現象である雲とを直接・間接に関連付けるメカニズムが考えられていないことです。
何らかの影響はあるのかもしれませんが、地中の動きが地震雲を作るメカニズムを説明する論文はないのです。
地震雲の形は説明可能
地震雲は奇妙な形をした雲です。
1995年の阪神淡路大震災では竜巻のような雲が出ましたし、2023年のトルコ・シリア地震ではレンズ状の雲が観測されました。しかし、地震雲とされる雲はすべて科学的に説明することができるのです。
荒木さんによると、過去にも地震の前兆ではないかと雲が話題になることがあったそうですが、それらの雲は「飛行機雲」「波状雲」など、すべて気象学的に説明ができ、地震と関係なく発生する雲だということです。
引用:“地震雲”と呼ばれた雲の画像 正体はレンズ状の「つるし雲」 トルコ・シリア大地震で拡散した“災害デマ”を検証 – NHK
気象学的に地震雲と呼ばれる雲が発生する原因を説明することができるのであれば、地震雲は「地震雲の前兆とは言えない」と言えるのではないでしょうか。
地震雲を否定するのは悪魔の証明
地震雲には科学的根拠はありません。
しかし、「地震雲は地震の前兆とは絶対に関係ない!」と言い切ることはできない状態です。
なぜなら、ないことを証明するのは非常に困難だからです。
地震雲があるかないかというような話になってしまうと、ないことの証明って非常に難しいんですね、「悪魔の証明」とか言われていますけれども。
引用:みんなでファクトチェック 気象災害と偽情報①“地震雲”ってほんと? おそれる心理とは?|読むらじる。|NHKラジオ らじる★らじる
ただ、雲研究者であり気象庁気象研究所主任研究官の荒木健太郎氏は、気象学で説明できるし、もし地面の変化が雲に影響していても、人間が認識するのは不可能だから、雲は地震の前兆にならないと断言しています。
一方で、気象学ですでに説明できている現象に、もし仮に地面の変化が何らかの影響を与えていたとしても、それを人間が雲の見た目から区別して認識するのはまず不可能です。だから、雲は地震の前兆にはならないと断言できるのです。
引用:空に浮かぶ不思議な形をした雲「地震雲」の正体とは?【書籍オンライン編集部セレクション】 | 読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし | ダイヤモンド・オンライン
つまり、悪魔の証明だから、「地震雲はない」と証明するのは難しいけれど、ほぼ100%に近い確率で地震雲はない。雲が地震の前兆にはならないと思って良いでしょう。
地震雲と東日本大震災
東日本大震災でも地震雲は報告された
2011年の東日本大震災が起こる前にも、地震雲は観測されていました。
地震雲は大地震の前兆?
東日本大震災時の雲を 画像で振り返るPinky https://t.co/CfVsfbtfIn pic.twitter.com/8cSDTHykWm
— CHIE (@HOKKIDO_N) March 10, 2017
また、山形市からは直線の2本の地震雲が観測されたとのこと。
2月17日昼の12:02 地震雲? 山形県山形市から太平洋の方向へ直線的に伸びる帯状の幅の広い雲?が2列見えた
ただ、これらの「東日本大震災の地震雲」とされる雲が、本当に東日本大震災の前兆だったのかどうかはわかっていません。
東日本大震災では地震雲につながる「前兆」が?
東日本大震災でも地震雲は観測されていましたが、現時点では「雲は地震の前兆ではない」が定説になっています。つまり、地震の前兆を表す地震雲は存在しないということです。
ただ、大地震の前には上空に変化が起こることが確認されました。東日本大震災では大気上空の電離層に乱れが起こったことを電気通信大学の研究グループが確認したのです。
多くの地震学者が予想していなかった東日本大震災だが、その5~6日前に「明瞭な前兆」を電気通信大学の研究グループが確認していた。同グループが注目するのは地震の前に現れる大気上空の電離層の乱れ。
また、北海道大学でも同様の観測をしていて、ほかの地震でも同じような大気上空に変化が起こることが確認されました。
同様の前兆変化は2010年2月のチリ地震,、2004年12月のスマトラ地震、および1994年北海道東方沖地震においても見出されており、海溝で発生する巨大地震に普遍的なものである可能性が高い。
これらの観測はあくまでも大気上空の電離層の乱れであり、地震雲が発生する根拠とはなりませんが、地震の前兆が空に現れることを示していますので、もしかしたら何らかの形で地震雲に関係してくるのかもしれません。
地震雲のデマに注意!
気象庁や研究者の間では、「雲は地震の前兆にはならない」、「雲や地震は関係ない」という見解です。
地震雲と言われたものは気象学で説明することができますし、日本は地震大国ですから、毎日どこかで地震が起こっている。珍しい雲を見た後にどこかで地震があれば、「あれが地震雲だったんだ」と思ってしまうのだと思います。
ただ、SNSを中心に「地震雲」が話題になることはあります。そして、「地震雲が出た」というデマを信じてしまうと、不安になると共に、誤情報が広がり、社会的なパニックを引き起こすきっかけになるかもしれません。
今回は「地震発生の可能性が平時より相対的に高まっている」と気象庁が公表した初めてのケースで、不安感を背景に、科学的根拠がないのに地震を「予知」する投稿も目立つ。政府は注意を呼びかけている。
SNSで地震雲の投稿を見ても安易に信じないこと、そして拡散しないことが大切ですね。
地震雲のまとめ
地震雲の地震雲はどんな雲なのか、特徴や形、種類の分類と写真、科学的根拠はあるのか、東日本大震災での地震雲やデマについてまとめました。珍しい雲を見ると、どうしても不吉な感じがしますし、「大地震が起こるのではないか」と思ってしまいますが、科学的根拠はありませんし、デマを拡散しないようにしたいですね。