冤罪事件は1人の無実の人間の人生を破壊してしまいますが、福井女子中学生殺人事件も冤罪の可能性が高いとされています。
福井女子中学生殺人事件の詳細と場所、被害者や犯人の動機、前川彰司はなぜ疑われたのか、裁判と現在、真犯人の存在をまとめました。
この記事の目次
福井女子中学生殺人事件の詳細
出典:fnn.jp
福井女子中学生殺人事件は、1986年3月19日に福井県福井市の市営住宅で発生した殺人事件です。
卒業式直後の女子中学生が何者かによって、残虐な方法で殺害されました。
事件の発生
1986年3月19日は市立光陽中学校の卒業式でした。同日午前中に卒業式を終えた中学3年生の高橋智子さんは、18時ごろに母親が勤務先のスナックに出勤したために、その日の夜は1人で自宅で過ごしていました。
そして、日付が変わった20日午前1時ごろに帰宅した母親が、変わり果てた姿で死亡している智子さんを発見しました。
犯行現場と遺体の状況
智子さんは普段着であおむけに倒れていましたが、その遺体は非常に無残な状態になっていたのです。
・右首に包丁が突き立てられていた
・コタツカバーを掛けた上から顔や首を50ヶ所以上を包丁でめった刺しにされていた
・ガラス製の灰皿で後頭部や額、顔を殴られていた
・電気コードで首を絞められていた
室内の鴨居にはドライヤーのコードをつるして、自殺を偽装しようとした形跡がありました。
21時には母親と智子さんは電話で話していること、さらに21時30分ごろに近所の人が物音を聞いたという証言から、犯行時刻は21時40分ごろと見られています。
また、玄関には争った様子はなく、智子さんは1人で留守番する際は玄関に鍵をかける習慣があったことから、智子さんと顔見知りの人物による犯行とみて警察は捜査を進めました。
前川彰司が逮捕
物的証拠がほとんどなかったこともあり、捜査は難航していましたが、事件から1年経った1987年3月29日に当時21歳だった前川彰司さんが逮捕されました。
前川彰司さんは逮捕直後から一貫して犯行を否認し、無罪を主張していました。
福井女子中学生殺人事件の場所
福井女子中学生殺人事件の場所は、福井県福井市豊岡2丁目1-3にある市営住宅の東安居団地6号館の2階にある一室です。
現在は老朽化による建て替えが行われていて、東安居団地C号棟になっています。
福井女子中学生殺人事件の被害者
出典:fnn.jp
福井女子中学生殺人事件の被害者は、高橋智子さんです。事件当時15歳の中学3年生で、卒業式後に殺害されました。
高橋智子さんは母親の静代さんと2人暮らしの母子家庭でした。両親は事件の6年前に離婚していて、智子さんには姉がいましたが、姉は父親と共に暮らしていたとのことです。
母親の静代さんはスナック勤めで、被害者の智子さんが夜に1人で留守番することは珍しくはなかったようです。
福井女子中学生殺人事件では前川彰司が犯人として逮捕
福井女子中学生殺人事件で逮捕されたのは、当時21歳だった前川彰司さんです。
警察は事件後から約4000人の事情聴取をしていて、その中の1人に前川彰司さんも含まれていました。しかし、事件当日は姉家族が来ていて、両親とみんなで夕食を囲み、自宅で就寝していたことから、アリバイがあると判断されて、容疑者リストからは外されていました。
しかし、その1年後に逮捕されました。
父親は有力者
前川彰司さんの父親は福井市の幹部職員で、事件当時は市長候補にもなっていた人物でした。
前川禮三さんは市長候補にも推された人物で事件当時、福井市の幹部職員。自宅に踏み込んだ警察に立ちはだかった。「犯行時間帯は息子と自宅で食事していた」と証言した妻はすでに他界した。
また、母親は息子のアリバイを証言しています。このほか、前川彰司さんには姉がいることがわかっています。
福井女子中学生殺人事件の犯人の動機は怨恨?
福井女子中学生殺人事件の犯人の動機は、分かっていません。
なぜなら、犯人として逮捕された前川彰司さんは逮捕後から一貫して無実を主張しているからです。しかも、詳しくは後述しますが、前川彰司さんは冤罪の可能性が高いので、この事件の犯人の動機は不明なのです。
ただ、犯行があまりにも残虐であることを考えると、強盗などの突発的なものではなく、怨恨による計画的な犯行の可能性が高いです。
ただの強盗なら、その場からすぐに立ち去りたいはずです。しかし、被害者は顔を50ヶ所近く刺され、さらに殴られ、首を絞められています。そこまでひどいことをするということは、被害者に深い恨みを持っていたと考えるのが自然ではないでしょうか。
福井女子中学生殺人事件で前川彰司はなぜ疑われた?理由①:暴力団員の証言
犯人として逮捕された前川彰司さんは、なぜ疑われたのでしょうか。
前述の通り、事件当初は事情聴取を受けたものの(この事情聴取は4000人受けた)、犯行時刻には家族で食事をしていたためアリバイがありましたし、被害者とは面識がなかったため、容疑者リストから外れています。
しかし、事件から1年後に逮捕されたきっかけは、前川彰司さんの先輩にあたる暴力団員の証言でした。
この暴力団員は「事件の夜、血だらけの前川彰司さんを見た」と証言したのです。
また、この暴力団員は前川彰司さんと被害者に面識があったと証言しました。前川さん本人は、「被害者とは面識がない」と主張していましたが、この暴力団員は「前川さんの手帳に被害者の名前と電話番号が書き込まれているのを見た」と証言し、警察はこの証言を採用しました。
この暴力団員が「被害者の名前と電話番号が書き込まれているのを見た」と主張した手帳は存在が証明されていません。
また、この暴力団員は覚醒剤で逮捕されていて、勾留中にこの証言をしています。
それでも、「血だらけの前川彰司さんを見た」という証言があったために、前川彰司さんは疑われて逮捕されてしまったのです。
福井女子中学生殺人事件で前川彰司はなぜ疑われた?理由②:素行不良&シンナー中毒
前川彰司さんはなぜ疑われたのか?直接的な理由は「事件の夜に血だらけの前川さんを見た」という暴力団員の証言でしたが、それ以外にも疑われた理由はあります。
事件当時、前川彰司さんは素行不良でシンナー中毒者でした。素行不良のシンナー中毒者だったことで、最初は事情聴取のリストに入れられています。しかし、アリバイがあったため、リストから外れたのですが・・・。
それでも、「素行不良のシンナー中毒者」という色眼鏡で見られていたのは間違いないでしょう。
前川彰司さんはシンナー中毒の治療のために県立病院に入院していて、退院して東京都内のリハビリ施設に移送するというタイミングで殺人罪で逮捕されました。同時に、シンナー中毒で毒物及び劇物取締法違反でも逮捕されています。
事件当時、重度のシンナー中毒だったことは間違いないようで、懲役後の2011年に再審開始の決定(後に取り消し)が出た時にも、シンナー中毒の後遺症で入院していました。
一〇代からのシンナー中毒などの後遺症で二年前の再審開始決定時には福井市の病院で会見した彰司さんはかなり回復し、通信制高校の卒業証書を手にしたばかりだった。
また、事件当時はシンナー中毒だったことで、前川彰司さん本人は犯行を否認していたものの、「シンナーを吸った状態で被害者宅に行き、一緒にシンナーを吸おうと誘ったところを拒否されて、激昂して殺害した」という動機設定を警察・検察が作り、逮捕されてしまったのです。
福井女子中学生殺人事件で前川彰司はなぜ疑われた?理由③:毛髪が落ちていた?
出典:fnn.jp
前川彰司さんはなぜ疑われたのか?最後の理由は毛髪です。事件現場には、99本の毛髪が落ちていて、そのうち2本が被害者母娘のものではなく、前川彰司さんのものであるとされました。
血痕の証拠能力が揺らいだ後、もう一つの物証が登場する。87年5月、事件現場にあった毛髪など99本と、前川さんの毛髪との識別鑑定が警察庁科警研に委託された。同年7月の鑑定結果は「99本のうち2本の毛髪が前川さんのと同一」。同月、福井地検は前川さんを殺人罪で起訴した。
引用:メモ:福井再審事件を新聞記事にて検証する。 – 「中央区を、子育て日本一の区へ」こども元気クリニック・病児保育室 小児科医 小坂和輝のblog
前川彰司さんは被害者と面識はないと主張していましたが、前川さんのものと同一の毛髪が事件現場に落ちていたということは、事件現場に前川さんがいたという証拠になります。また、前川彰司さんの主張は嘘であり、すべての面で信用がなくなります。
だから、前川彰司さんは疑われることになり、事件から1年後に逮捕されることになりました。
福井女子中学生殺人事件の裁判では毛髪や証言の信用性がひっくり返った
一審は無罪
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福井女子中学生殺人事件の第一審は1990年に結審しましたが、判決は無罪でした。つまり、前川彰司さんの主張が認められたことになります。
無罪判決が出た理由は主に2つ。
まずは毛髪についてです。福井県警は警察庁科警研に現場に落ちていた毛髪の鑑定を依頼し、「現場に落ちていた2本の毛髪は、前川さんのものと同一である」という鑑定結果が出ました。
この鑑定結果によって、前川さんは起訴されたのですが、第一審では「捜査当時は毛髪の類似性までは識別できても、同一とまでは判定できないというのが専門家の見解」と結論付けました。
つまり、鑑定では「似ている」とわかるだけで、現場に落ちていた毛髪が前川彰司さんのものであるとはわからないということです。
また、「事件の夜に血だらけの前川さんを見た」という暴力団員の証言は、最初は血だらけの衣類を「川に捨てた」と言っていたのに、そのうちに「川の土手に埋めた」と証言を変えるなどあやふやで信用性に欠けていました。
さらに証言は事件の1年後にようやく出てきたもので、しかも証言した時にはこの暴力団員は覚醒剤使用で逮捕・勾留中でした。しかも、勾留中に量刑を軽減してもらうために、警察と取引をした結果の証言だった可能性が出てきました。
実際に、第一審では「血の付いた前川さんを見た」という証言を翻し、「事件当夜はうどん店にいた」という証言をしています。
第一審では「毛髪」と「証言」の2つの信用性がなくなったことで、前川彰司さんには無罪判決が言い渡されました。
控訴審・上告審は有罪
第一審では無罪判決を勝ち取った前川彰司さんですが、検察が控訴します。控訴審では1995年に逆転有罪判決で懲役7年が言い渡されました。
なぜ、逆転有罪になったのか?
それは、第一審で否定された毛髪と証言の信用性をひっくり返ったからです。
毛髪については、「確かに同一と断定できないが、前川彰司さんが現場にいたという1つの資料にはなる」としました。つまり、前川さんの毛髪かどうかは分からないのに、「前川彰司さんがいた可能性は高い」としているのです。
また、証言については、警察と暴力団員の裏取引を否定し、さらに証言があやふやで変わったことについては、「大筋では一貫している」として「信用できる」と認定しました。
検察側の求刑は懲役13年でしたが、シンナー中毒により事件当時は心神耗弱状態だったことが考慮されて、懲役7年の実刑判決になりました。
前川彰司さんは上告しましたが、上告の理由は当たらないとして、1997年に上告を棄却し、前川彰司さんの懲役7年の量刑が決定しました。
ここから前川彰司さんは収監され、2003年3月に満期出所しています。前川彰司さんは事件当時21歳、逮捕された時は22歳、そして、有罪判決が確定した時は32歳、出所した時には38歳でした。
福井女子中学生殺人事件の現在:再審が決定
第一次再審請求は取り消し
福井女子中学生殺人事件は前川彰司さんが満期出所したことで、とりあえずは終了したかと思われましたが、前川彰司さんは出所後の2004年7月15日に再審請求の申し立てが行われました。
再審請求をするためには、無罪のための新たな証拠が必要です。
この時の再審請求の新たな証拠は、次の3つです。
・被害者の高橋智子さんの遺体には現場に残されていた2本の包丁とは合わない傷口があるため、3本目の凶器がある可能性がある
・「血まみれの前川彰司さんと事件当日に会った」という証言をした人が証言を翻した
・犯行後に前川さんが乗り血痕がついていたという証言があったが、血液反応は出なかった
これらの新たな証拠により、2011年に名古屋高等裁判所金沢支部は再審開始を決定しました。
しかし、検察側の異議申し立てにより、再審開始の取り消し決定が言い渡され、最高裁でも再審は行わないことが決定されました。
この時は再審の扉は固く閉じたままでした。
第二次再審請求で再審が決定
第一次再審請求は却下されましたが、2022年10月に前川彰司さんは第二次再審請求を行いました。この時の再審請求の焦点は、「事件当日に血のついた前川彰司さんを見た」という証言の信用性についてです。
この証言をした人は、「警察から取引を持ちかけられた」と述べています。
この中で知人は「警察から自分の犯罪を立件しないことと引き換えに前川さんの関与を認めるよう取り引きを持ちかけられて、うその証言をした」と述べています。
この証言から、前川彰司さんの弁護団は「警察が関係者を強引に誘導して、証言を捏造した」と主張しています。
また、この証言をした人はマスコミの取材に応じ、次のように述べています。
・事件の時に会っていなかったのに『会った』と言った。自分のせいで刑に服した。ずっと悪いという気持ちを抱えて過ごしてきた
・福井署の捜査員に薬物事件を見逃す代わりに、控訴審では長所通りの「見た」と証言するように求められた
・控訴審では捜査員と「なあなあの関係」になっていて、有罪判決後には結婚の祝儀を受けた
これらの証言が出てきたこともあり、2024年10月に名古屋高等裁判所金沢支部は再審請求を決定しました。今回は検察側も異議申し立てを断念し、再審開始が確定しました。
2025年春には無罪確定か?
出典:nikkei.com
福井女子中学生殺人事件では再審開始が決定されました。この再審は2025年3月に開かれ、即日結審することが決まっています。また、検察側は新たな証拠を提出せず、争わない方針を発表していますので、前川彰司さんは無罪になる可能性が高いと見られています。
事件から39年の時を経て、ようやく前川彰司さんの無罪が確定するものと思われます。
福井女子中学生殺人事件の真犯人は誰?
前川彰司さんが無罪だった場合、福井女子中学生殺人事件の真犯人は誰なのか?という問題が浮上します。前川さんが無罪なら、他に真犯人がいるはずです。そして、その真犯人は残忍な殺害方法で被害者を殺害したのに、のうのうと39年間も普通に生活していることになります。
真犯人は誰なのか?犯行現場から見ても、被害者とは顔見知りであることは間違いありません。しかも、何度も刺している&灰皿で殴る&首を絞めていることから、真犯人は非力な女性であり強い恨みを持っている可能性もあります。
ただ、「強い恨み」は被害者の高橋智子さんに向けられていたものではなく、母親などの家族に向けられていたのかもしれません。普通の女子中学生がそこまで強い恨みを抱かれる機会はないはずですから。
母親など家族に強い恨みを持つ真犯人が見せしめに被害者を殺害した可能性は十分にあると思います。
福井女子中学生殺人事件のまとめ
福井女子中学生殺人事件の詳細や場所、被害者や犯人の動機、前川彰司さんはなぜ疑われたのか、その理由(素行やシンナー中毒・毛髪・証言)と裁判や現在の再審請求と真犯人をまとめました。
前川彰司さんの無罪が確定することを期待しますが、真犯人はわからないまま事件は迷宮入りしてしまうと思うと、やり切れないものを感じます。