ユートピア加賀の郷は、バブル全盛期に民間企業の社長が石川県加賀温泉郷に建てた宗教テーマパークです。この記事ではユートピア加賀の郷の昔、加賀寺や観音温泉ホテルなど施設、織田無道との関係、廃墟となった現在、解体予定、心霊の噂についてまとめます。
この記事の目次
ユートピア加賀の郷の概要
ユートピア加賀の郷(かがのさと)は、かつて石川県加賀市の加賀温泉郷玄関口にあった宗教(仏教)のテーマパークです。
開園は1987年4月7日で、関西を中心に宅地開発やスーパー、レストランなどの運営をしていた関西土地建物株式会社の社長・嶋中利男氏が約280億円を投資して建設しました。
ユートピア加賀の郷が建てられた周辺は奈良時代に観音堂が祀られたことから「観音山」と呼ばれており、この施設も加賀出身の嶋中氏が観音霊場の再興を目指してつくられたといいます。
園内には巨大観音像のある加賀寺にくわえて、遊園地・加賀ユートピアランド、パットゴルフ場、観音温泉ホテル、嶋中氏のコレクションを展示した嶋中近代美術館・博物館などがそろい、開園時は折しも日本はバブルの好景気真っ只中であったため、社員旅行や家族旅行の団体客も多く訪れました。
宗教色はあったものの、子どもから大人まで楽しめる複合レジャーランドとあって、オープンした当初は年間50万人もの来場者があったとされます。
しかし、遊園地のアトラクションなどに目新しさがなかったことから年々来場者が減っていき、運営会社である関西土地建物もバブル崩壊の影響を受けて所有不動産の不良債権化、経営するスーパーの赤字などが続くという困難な状況に陥ります。
そして1997年8月には嶋中利男氏が社長解任となり、1998年6月19日には破産宣告を受けることに。
ユートピア加賀の郷は関西土地建物の経営が悪化する前に大島商会という会社に運営が移籍されていましたが、この大島商会も登記簿上の本社の所在地は関西土地建物と同じであり、まったくの別会社が買い取ってくれたわけではありませんでした。
そのため経営不振を脱却する改革は行われず、1999年に遊園地・加賀ユートピアランドが閉園したのを皮切りに、ユートピア加賀の郷の施設はどんどん閉業していくこととなりました。
その後も経営者が変わるなどして何度か加賀寺と観音温泉ホテルだけは細々と運営が続きましたが、2012年には観音温泉ホテルも完全閉業し、現在は加賀寺だけが営業しています。
ユートピア加賀の郷の全盛期・昔の様子① 加賀寺
加賀寺はもともと金沢市泉町にあった高野山真言宗の寺院・豊星寺を加賀市に移したものです。
移転後の正式名称は「真言宗大本山観音院加賀寺」。なお、後述しますが2009年にタレント活動もしていた僧侶の織田無道氏が加賀寺の住職となったのを機に、「密教禅大本山豊星寺」に改名しています。
加賀寺は富山県、石川県、福井県の北陸3県の33カ所の札所から構成される北陸白寿観音の番外霊場とされていました。
加賀大観音
目を引くのは全高73mもの巨大観音像で、この加賀大観音は1988年4月2日に開眼したとされます。
加賀大観音の1階は西国、坂東、秩父百ヶ寺の各霊場の観音像が並べられ、百観音札所巡りができるようになっており、2階は四国霊場の各霊場の本尊が安置されて四国八十八箇所めぐりができるようになっています。
全盛期には「各霊場に足を運ばなくても加賀寺に行けばご利益が受けられる」として、にぎわっていたそうです。
また、加賀大観音の内部は胎内めぐりができ、かつては365段のらせん階段を使って3階から観音像の喉元まで上れました。
最上階は地上56mの地点。ここまで到達する間のらせん階段の壁にも金色の観音像のパネルが配置されており、これは加賀寺で1枚3,000円で販売されているものです。
観音像のパネルは絵馬のような意味合いがあるそうで、拝観者は願い事や氏名などを書いて奉納したといいます。
らせん階段を上りきった最上部には小部屋があり、恵比寿様、大黒天様、布袋様の黄金の像が安置されています。
観音像の丸まった髪の毛の部分・螺髪も、全盛期は夜になると赤く点灯する仕組みになっていました。
加賀三十三間堂
加賀三十三間堂は大観音像の後ろに位置する建物です。三十三間堂というものの、本家の蓮華王院本堂のように柱間が三十三間あるわけではありません。
全盛期にはこの建物の中に40メートルの巨大なスクリーンが設置されており、シンセサイザーの音色とともに観音浄土の世界が映し出されたそうです。
現在はスクリーンは稼働しておらず、仏教伝播の様子を伝えるジオラマのみが残されています。
堂内の東側は中尊寺金色観音像を中心に左右に594体ずつ、合計1188体もの金色の千手観音像が25段94列にわたって並んでいます。
梵鐘佛堂
出典:http://yoshy1971.blog.fc2.com/
梵鐘佛堂は大観音像の横にある大梵鐘を安置する施設です。大梵鐘は直径5メートル、全高10メートル、重量350トンと巨大で、これまた黄金。
合金に金箔を貼ったものとしては、この大梵鐘は世界最大のものだといいます。
また、現地の説明書きにも「梵鐘として日本で一番大きい」と書かれているのですが、公式に日本最大の梵鐘とされているのは熊本県玉名市の蓮華院誕生寺奥之院にある「飛龍の鐘」です。
飛龍の鐘は直径2.88メートル、高さ4.55メートル、重量37.5トン。大きさだけを見れば加賀寺の梵鐘が勝っているのですが、梵鐘の正式な基準を満たしていないのか、日本一とは認められていない様子です。
ユートピア加賀の郷の全盛期・昔の様子② ユートピアランド
ユートピア加賀の郷のなかでも最大の集客数を誇ったのが、遊園地・ユートピアランドです。
ユートピアランドは1999年頃に経営不振のため閉園し、2006年に解体されています。
あまり宗教とは関係のない普通の遊園地で、ローラーコースターやバッテリーカー、観覧車、お化け屋敷、ミニトレインなどのアトラクションが100~400円で利用できました。
また、夏にはウォータースライダーや流れるプール、幼児プールなどを併設したプールも営業して人気を博していたといいます。
ユートピア加賀の郷の全盛期・昔の様子③ 観音温泉ホテル
観音温泉ホテルは、レストラン加賀として運営されていた施設を改装して建った宿泊施設です。1988年に温泉が掘削されたことを機に建設されました。
目玉は600坪にもおよぶ大ジャングル風呂で、開業は1995年7月20日。当時は北陸本線の加賀温泉駅から歩いて行かれる場所にある、唯一の温泉でした。
別館の2階に嶋中近代美術館・博物館が入っており、客室数は97、収容人数は約400人。しかしながらユートピアランドの人気が低迷、閉園するとホテルの宿泊客も減り、2002年ごろに閉館することとなりました。
2009年1月には営業再開し、ホテルや温泉の清掃などを手伝うことを条件に、失業者に住居と食事を提供する「失業者支援仮住居提供」を開始して立て直しを図ります。
そして2009年9月には「豊星の湯」としてリニューアルオープンしましたが、営業再開早々に資金繰りに行き詰まり、改装工事費や従業員の給料も未払いであることが明らかになります。
その後も営業を続けていましたが、運営元が加賀寺、観音温泉ホテルの電気料金を2011年11月から約140万円滞納していたことにより停電状態となり、2012年1月に完全に閉館しました。
ユートピア加賀の郷の迷走① 織田無道を加賀寺住職に迎えていた?
経営が傾いた後、ユートピア加賀の郷はユートピアランドを関西土地建物が、観音温泉ホテルを大島商会が、加賀寺を宗教法人豊星寺がそれぞれ運営していました。
その後、ユートピアランドがいち早く閉園し、大島商会と宗教法人豊星寺がユートピア加賀の郷の運営を続けることとなりました。
ユートピアランドに続いて観音温泉ホテルが閉鎖すると、加賀市が加賀大観音像などの不動産を差し押さえることになり、整理回収機構が6年ほど管理。
そして2006年2月に、ユートピア加賀の郷と宗教法人豊星寺の宗教法人格が売りに出されました。
競売に出されたユートピア加賀の郷と宗教法人格を買い取ったのは、大阪にある医療機器販売会社だったといいます。
運営会社が変わった加賀寺は三論宗別格本山豊星寺として再出発しました。ところが、76歳の僧侶が20歳の参拝客にわいせつ行為をしたとして逮捕され、またしても客が激減。
そこで2009年9月26日に豊星寺の2代目住職としてやってきたのが、僧侶でありタレントの織田無道(本名・織田礼介)氏だったのです。
当時の織田無道氏の評判
出典:https://movie-tsutaya.tsite.jp/
現役の僧侶(臨済宗圓光寺の第49代住職)で霊能力者という触れ込みで、1990年代に『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』バラエティ番組に出演し、人気を博していた織田無道氏ですが、この頃には良くない話がついて回るようになっていました。
織田無道氏はオウム真理教が起こした数々の事件以降、TV番組で心霊やオカルトを扱うことが避けられるようになり、メディアから姿を消していました。
そして次にメディアに姿を見せたのは、2002年。宗教団体の乗っ取り疑惑で逮捕されたとして報道されたのです。
織田無道氏はある宗教法人の議事録を改ざんし、自分が代表役員になったという虚偽の登記をしていました。
これが明らかになり、公正証書原本不実記載・同行使の容疑で起訴され、懲役2年6ヶ月(執行猶予4年付き)を言い渡されます。
裁判で織田無道氏は「冤罪だ」「自分ではない誰かが登記簿を勝手に変更した」として、何者かにはめられたと訴え続けました。この主張の真偽は不明ですが、いずれにしても世間の織田無道氏への目は冷たいものとなってしまいます。
その後も織田無道氏は「無道Spirit」という格闘技イベントを開催し、話題を呼んだものの、出場選手へのファイトマネーの支払いが滞るなどして関係者から「騙された」という声が続出してしまったのです。しかも、トラブルの最中に織田無道氏は姿を消してしまったといいます。
しかし、このような大掛かりなことを織田無道氏が1人だけで行ったとは考えづらく、「無道Spirit」の興行関係者からは以下のような話も出ていました。
「会場にはどう見てもヤクザのような怖い面々がいて、興行後に織田さんを連れ去ったという噂も会場内を飛び交っていた」
そのほかにも2007年12月13日発売の『週刊新潮』では、「怪しい『100万ドル紙幣』で金を無心『織田無道』」という記事まで掲載されていました。
この記事には「無道Spirit」の裏側が書かれており、イベント構成を依頼されたというデザイン会社の社長が「2007年の5月ごろ、織田さんがやって来て100万ドル紙幣のカラーコピーを見せて『この原本を売りたいのだが、協力してくれ』と胡散臭い話を持ち掛けてきた」と証言しています。
織田無道氏は100万ドル紙幣の出どころについて、「東久邇宮から換金を頼まれたもので、FRBが発行した」と皇族の名前を出していたそうです。
しかし、アメリカ財務省によると100万ドル紙幣というのは存在せず、世に出回っている「100万ドル紙幣のカラーコピー」は、百万ドル特別券という名称で過去に1ドルで売り出されたプラチナ券とのこと。
この百万ドル特別券を100万ドル紙幣と騙る詐欺は過去に熊本でも起きており、誌面では織田無道氏の行動が不審だと指摘していました。
加賀寺(豊星寺)の住職になる
2009年9月26日に加賀寺の住職となり、寺を密教禅大本山豊星寺と改めて観音温泉ホテルも豊星の湯として再開した織田無道氏。
しかし、その直後の11月には従業員への給与や改装工事費用の支払いが滞り、観音温泉ホテル(豊星の湯)は閉鎖します。
ユートピア加賀の郷を買い取ったという大阪の医療機器販売会社は、真面目に経営しようと思っていたのでしょうか?
下の動画は、オカルト作家のチカモリ鳳至氏が観音温泉ホテルの廃墟を散策しているものなのですが、ホテルの事務所内に残されたままの契約書や取引先への手紙なども見つかっています。
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=NRmUMJf2Vpk?si=M89XDiu_V_hd7SuC]
動画内では「改装工事費として引き落とされている80万円は、いつまで払い続けなければいけないのですか?」といった手紙も発見されており、どういう経営をしていたのか疑問が生じます。
発注者側が改装工事の総額や支払い計画を把握していないことなど、普通は考えられません。
ジャーナリストの山岡俊介氏は運営するウェブサイト『アクセスジャーナル』で、競売でユートピア加賀の郷を買い、織田無道氏に運営を任せた大阪の医療機器販売会社について以下のように綴っていました。
実はこの寺や隣接する温泉施設の土地、建物は06年2月、競売により大阪市内の会社が取得していた。そして、その代表とはかつて「丸石事件」絡みで逮捕されたこともある、元「病院乗っ取りグループ」のボスだったのだ。
山岡俊介氏が指す、丸石自転車事件で逮捕された元・病院乗っ取りグループとは、関西方面を中心に暗躍した日本屈指の乗っ取りグループのことでしょう。
ボスは詐欺、業務上横領、背任など複数の前科を持ち、服役と出所を繰り返している人物です。
そのような人物から織田無道氏が宗教法人格とユートピア加賀の郷を任せられたのだとしたら、狙いとして考えられるのは税制面での優遇でしょうか。
脱税の抜け道に休眠中の宗教法人を使うというケースは少なくないといい、売買を仲介するブローカーも存在するそうです。
調べたところ、2011年1月30日の朝日新聞の記事でユートピア加賀の郷が売却予定だと報じられており、「入浴施設やホテルを宗教法人に寄付したという形式をとれば、税金が免除される」という売り文句で営業をかけていると書かれていました。
もともと病院乗っ取りで荒稼ぎをしていた集団が、脱税目的で購入した宗教法人格と施設だったために、運営が杜撰だったのかもしれません。
そう仮定すると織田無道氏を住職に据えたのは、宗教法人として活動している実態がないではないか、と国税局に怪しまれないようにするためとも思えます。そう考えると、早々に従業員への賃金未払いが生じたのも頷けます。
織田無道氏は真剣に経営するつもりだった?
一方で当時、ユートピア加賀の郷の近くに住んでいた人のブログによると、「2009年のリニューアルオープン時には、芸能人を呼んだイベントもやっていた」「織田無道の顔写真が印刷されたビラがそこら中に貼りだされていた」とのこと。
ホテルのリニューアルオープンイベントには長洲小力さんやアントニオ小猪木さんなどのお笑い芸人がやって来て、地元では話題になったといいます。
このようなイベントを開催し、全面的に自分の存在をアピールしていたとなると、結果はどうであれ織田無道氏は真面目にユートピア加賀の郷を運営するつもりだったのかもしれません。
しかし、いかんせん引き渡された時には工事費の滞納が続いていて資金繰りにも困っていたため、立て直せずに頓挫した可能性もあります。
いずれにしても、織田無道氏はユートピア加賀の郷について何も語らずに2020年に亡くなっています。
創設者の手を離れてからユートピア加賀の郷がどのような経緯を辿ったのか、その経営に闇はなかったのか、明らかになることはないのかもしれません。
ユートピア加賀の郷の迷走② よろこび家族の和が加賀寺を取得
「北陸中日新聞」の記事によると、2010年5月15日の時点で、すでにユートピア加賀の郷の大観音像には13億円の根抵当権がついており、これは極度額ギリギリだったそうです。
そして2012年1月にはすべての施設が閉鎖され、織田無道氏らも経営から手を引いたとされます。
その後、2016年になると加賀寺(豊星寺)を買い取る団体が現れます。それが新興宗教・法の華三法行を前身とする「よろこび家族の和」 です。
よろこび家族の和が運営権を取得して以降、豊星寺は「天空聖陵 加賀の郷」と名前を変えています。
さて、このよろこび家族の和も怪しい雰囲気の漂う団体でした。そもそも前身の法の華三法行は教祖が詐欺容疑で逮捕されています。
法の華三法行の教祖は足の裏を見れば悩みや罹患する病気がわかるという「足裏診断」を行い、「あなたはガンになる」などと信者を脅しては、「自分の力を分ければ病気の憂いがなくなる」と騙って高額なお布施を要求していたとされます。
一時期は毎日のように法の華三法行の事件がTVで報道されていましたから、後継団体であるよろこび家族の和に良い印象が持てる人もそうはいないでしょう。
客足は戻ることなく、ユートピア加賀の郷はどんどん朽ちていき、唯一、営業していた加賀寺(豊星寺)もふくめて廃墟化が進んでいきました。
ユートピア加賀の郷の現在① 合法で入れる廃墟になっている?
遊園地のユートピアランドは2006年に完全解体されていますが、観音観光ホテルは現在も廃墟として放置されています。
観音観光ホテルは加賀寺の拝観料を払えば中を散策できるようになっているといい、参拝料は大人・500円、子どもは無料とのことです。
基本的に廃墟になっている建物は管理者や所有者と連絡を取ることが難しく、かといって勝手に入るのは違法行為となります。
しかし、ユートピア加賀の郷は入り口でお金を払えば廃ホテルに入れるため、「合法で散策できる廃墟」としてマニアの間で注目を集めているようです。
ただ、大観音像や三十三間堂などの加賀寺の建物と違い、観音観光ホテルやユートピアランドがあったエリアはガラス片や瓦礫なども散乱して荒れ放題になっていますから、向かう際には怪我をしないよう注意が必要です。
一方で大観音像は現在でも公開されており、中に入れるようになっています。
とはいえ、すべての場所に入れるわけではありません。入り口にいる管理者の男性によると「大観音像の2階は床が腐り始めていて、立ち入り禁止にしている」とのこと。
観音像の喉元まで上りたいという参拝客がよくいるそうですが、危ないため遠慮してもらっているといいます。
なお、この管理者の男性は1996年頃からユートピア加賀の郷で働いていた方で、愛着があって同僚たちが去っていった後も加賀寺の掃除や管理を続けているのだとか。
合法的に散策ができる廃墟ではありますが、ユートピア加賀の郷を訪れた際にはこの男性の注意をきちんと聞き、汚したり、破壊行動をしたりといった迷惑行為は決して起こさないようにしましょう。
ユートピア加賀の郷の現在② 今の施設所有者と解体の予定
大観音像をふくむユートピア加賀の郷の敷地の大部分は、2021年2月に京都府京都市にある不動産会社「洛悠(らくゆう)M1」が取得しています。
洛悠M1が取得した土地の面積は13万9000㎡と報じられており、大観音像については解体、保存の両方の可能性を探っているそうです。
また、加賀市も2021年10月に北陸本線の加賀温泉駅北側に住宅地を開発する「加賀ライズタウン構想」を発表していました。
市はその後、駅南側の開発を先に進めたことから、ユートピア加賀の郷周辺の開発を洛悠M1主導で行うか、加賀市主導で行うか決定されていません。
いずれにしても、地元の人々からは「北陸新幹線から見た時に、荒れ果てた建物が見えるのは恥ずかしい」「できれば観音様は残す方向で、周辺環境を良くしてほしい」といった要望が出ているといいます。
ただ、2023年10月現在の時点では詳しい解体の時期はまだ決まっていない様子です。
大観音像や三十三間堂が危険だという指摘も
やっと買い手がついて再開発の話も持ち上がったものの、周辺住民からは大観音像などの施設に対して「いつ倒壊するかわからない」と危惧する声もあがっています。
また、大観音像については頭や肩にある合計9個の航空障害灯が消灯したまま放置されているとして、航空法違反だと指摘されています。
航空法では高さ60メートル以上の建造物には航空障害灯の設置と管理が義務付けられているのですが、2012年1月に電気代滞納が原因でユートピア加賀の郷全体に電気の供給が止まって以降、観音像の航空障害灯も消灯したままだったそうです。
現在の所有者の洛悠M1によると「こちらで買い取ってからは施設の電気代も払っているので、確認不足だった。電気系統に故障があるため至急、対応したい」とのこと。長らく通電していなかったため、故障してしまったのでしょう。
さらに地元の人からは「三十三間堂の金メッキの仏像も、雷が落ちたら危ないのではないか。大火事になりかねない」と心配の声があがっているそうです。
ユートピア加賀の郷の現在③ 嶋中社長のその後は?
ユートピア加賀の郷の創業者である関西土地建物株式会社の社長・嶋中利男氏は、「土木作業員の身から会社を興すまで出世できたのは、観音様のご加護のおかげ」と考えていたそうです。
そのため感謝の気持ちを込めて私財を投じて大観音像を建立し、他の人々にも観音様の素晴らしさを知ってほしいと思っていたといいます。
嶋中利男氏がユートピア加賀の郷の経営から離れて以降、どのように過ごしているのかは不明です。
しかし、廃墟となった現在も大観音像だけは地元の人々に愛されているといい、県外からも足を運ぶ参拝客がいるとのことです。
ユートピア加賀の郷の現在④ 心霊スポットとしても有名に
巨大な観音像が鎮座している霊験あらたかな場所であるにもかかわらず、ユートピア加賀の郷は心霊スポットとしても有名です。
YouTubeにも「ユートピア加賀の郷に行って撮影したら変な声が入った」という動画が複数アップされています。
出ると噂されている霊は、小学生や白いシャツを着た男などで、お経を読む声が聞こえたという人も多いようです。
ユートピア加賀の郷での心霊体験として有名なものとして、以下のような話があります。
10年ぶりくらいに地元・加賀の観音像が見たくなって、彼氏に頼んで向かってもらった。
到着すると記憶とは違い、荒れ果てていたため帰ろうとしたところ、園内に設置されたスピーカーから大音量でお経が聞こえてきたため、まだやってるんだ、と思って中に入ること。
すると入口の石段で、風もないのに上から空のペットボトルとお弁当のゴミが私たちをめがけて落ちてきた。
気味が悪く思ったものの観音像の入り口付近までやって来たところ、「落雷のため立ち入り禁止」と書いてあり、参拝はできない様子だ。
引き返そうかと思ったところ、「遊園地はこちら」という看板を見つけて懐かしくなって遊園地にも立ち寄ることにした。
遊園地入り口の乗り物を見て彼氏と話していると、園外から小学生くらいの子どもの笑い声が聞こえてきた。
人がいるなら安心だと思い、遊園地の奥まで進むと、白い服を着た男の人が4~5人集まって、1つのコーヒーカップを囲んでいる。
「こっちに人がいるよ」何の気なしに彼氏に話しかけると、彼氏は顔色を変えて私の手を引き「でるぞ!」と言い、来た時とは違う、お経の聞こえないルートで駐車場まで戻った。
駐車場に着いてから聞いたのだが、彼氏は遊園地の入り口付近からずっと洋服の右裾を何者かに引っ張られていたといい、ずっと気味悪く思っていたそうだ。
ちなみに、私が聞いた子どもの笑い声は彼氏には聞こえていなかったといい、「近所に小学校もないのに、こんな寂れた場所まで子どもの声なんか届くわけがない」と言われた。
お経を読む声というのは、加賀寺の三十三間堂では拝観時間中にお経のテープが流されているらしいので、それを心霊現象だと勘違いした人が多かったのかもしれません。
また、かつては遊園地の廃墟で観覧車やコーヒーカップなどが風で勝手に動いていたことがあったそうですから、これに驚いて心霊現象だと勘違いした人もいたといいます。
ユートピア加賀の郷についてのまとめ
今回は石川県加賀市にあった仏教のテーマパーク・ユートピア加賀の郷について、全盛期の様子や歴史、現在を中心に紹介しました。
創設者の嶋中社長は観音様への感謝の気持ちを込めて施設をつくったとのことですが、バブル崩壊の影響もあって、ユートピア加賀の郷は現在に至るまで数奇な運命を辿ったようです。
廃墟になった今も、地元の方々からも嶋中社長が建立した観音像は愛されているとのことですから、観音像を保存する方向で開発が進むといいですね。