1046号室殺人事件とは1935年にアメリカのカンザスシティで起きた、ローランド・T・オーウェンという男の怪死事件です。この記事では現在も未解決の1046号室殺人事件について、事件前の被害者の行動、真相考察について紹介していきます。
この記事の目次
1046号室殺人事件(1046号室の男)の概要【未解決事件】
1935年1月5日、アメリカのミズーリ州カンザスシティにある「ホテル・プレジデント」の1046号室で男性が血を流して倒れているところを発見されました。
負傷していたのはこの部屋に宿泊していたローランド・T・オーウェンという男性で、第一発見者のホテル従業員によって病院に搬送されたオーウェンはほどなくして死亡。
息を引き取る前にオーウェンは医師からの「誰にやられたのか?」という問いに「noboddy(誰でもない)」、と答え、「自分でやったのか?」という問いに対して「no」と答えるなど、よくわからない発言をしていたといいます。
また、オーウェンの遺体には首や手首、足首などに縛られたような跡があり、執拗に胸を刺されていたことから、殺害されたことは明らかでした。
しかし、殺人現場となった1046号室からはオーウェンの私物はもちろんのこと、備え付けの石鹼や歯ブラシまでもが持ち去られており、犯人に繋がるものは発見されません。
しかも被害者がホテル・プレジデント宿泊時に宿帳に書いた「ローランド・T・オーウェン」という名前も偽名で、彼の素性が判明するまでにも1年半もの時間がかかってしまいました。
こうした背景もあり、本件は現在も犯人が捕まっておらず未解決のままです。事件は現場となったホテルの部屋番号をとって1046号室殺人事件、1046号室の男事件と呼ばれています。
また、被害者が殺される前に不審な行動を見せていたことや、葬儀に際に謎の人物から葬儀費用とともに13本のバラの花が送られてきたことなど不可解な点が多く、1046号室殺人事件の真相については未だにさまざまな考察が飛び交っています。
1046号室殺人事件の詳細① ローランド・T・オーウェンがホテルを訪れる
1935年1月2日の午前10時頃、カンザスシティのダウンタウンにあるパワー & ライト ディストリクト地区に位置する「ホテル・プレジデント」に、ローランド・T・オーウェンと名乗る男が現れました。
オーウェンは黒いオーバーコートを着た身なりの良い人物で、宿帳にはロサンゼルス在住と記載。年齢は20代後半程度に見えました。
なにも荷物を持っておらず、一泊分の料金を前払いして「道路に面していない部屋を頼む」と要望を伝えてきたそうです。
また、オーウェンにはこめかみに傷があり、耳がカリフラワー状という外見的特徴が見られました。
カリフラワー耳とは柔道選手などによくみられる、つぶれた形状の耳のことです。この耳の形とこめかみの傷を見て、ホテルのボーイはオーウェンのことを「レスラーかボクサーなのだろう」と思ったといいます。
ボーイは要求に沿って、道路ではなく中庭に面した1046号室へオーウェンを案内。ここまでは普通の宿泊客のように見えました。
しかし、その日の午後にオーウェンがフロントに鍵を預けていったん外出して戻って来た後、掃除のためにメイドが1046号室を訪れたところ、カーテンは閉め切られ、小さなランプの灯りがひとつついただけという真っ暗な状態だったそうです。
メイドは事件後にこの時のことを振り返り、「彼は何かに怯えているようだった」と証言しています。
1046号室殺人事件の詳細② 謎の人物「ドン」
メイドが掃除を終えて1046号室を出ようとしたところ、オーウェンは彼女に「来客があるから、鍵は開けたままにしておいて」と声をかけてきました。
彼女はそれに従って部屋を後にして、再び16時頃に洗濯したタオルを持って1046号室にやって来たといいます。
すると部屋は真っ暗でオーウェンは寝ており、カーテンの隙間から差し込んだ日の光でサイドテーブルにあるメモに書かれた文字がメイドの目に入ってきました。
メモには上のような文章が書かれていたそうです。
「ドン」からの電話
翌3日の午前10時半頃、メイドが掃除をしようと訪れたところ1046号室のドアには鍵がかかっていました。
メイドはオーウェンが外出していると思い、スタッフ用のキーで部屋の中に入ったといいます。
しかし、部屋に入ってみると真っ暗な部屋の中にオーウェンが座っていました。
そしてメイドが挨拶をしようとすると電話が鳴り、慌てた様子で受話器をとったオーウェンは「いいえ、ドン。食べたくありません。お腹は空いていません。朝食を食べたばかりで…いいえ、お腹は空いていないんです」と答えたそうです。
その後、電話を切ったオーウェンはメイドに話しかけ、仕事について質問した後に「プレジデントはこのホテルに居住しているのか?」と尋ねてきました。
この「プレジデント」が誰を指すのかは不明ですが、ホテルの責任者のことかと思ったメイドは質問に答えて部屋を出たといいます。
1046号室殺人事件の詳細③ 事件前夜
3日の16時頃、前日と同じようにメイドが洗濯したタオルを持って1046号室に向かうと、今度は部屋の中から男2人の話し声が聞こえてきました。
メイドがノックをすると、オーウェンではない男の声で「今はなにも用がない」と立ち去るように命じられたといいます。
男が「ドン」だったのかは不明ですが、この日にはもうひとつ気になる出来事が起きていました。
1月3日の夜、ホテル・プレジデントには多くの客が集まっていたとされます。とくにオーウェンも宿泊していた10階ではパーティをしている部屋があり、頻繁に客や従業員がフロアに出入りしていました。
そんななか、ホテルのエレベーターボーイが1人の女性に既視感を覚えたといいます。エレベーターボーイは10階に行くと言ってきた女性に対し、「最近もこの人をエレベーターで見た気がする。コールガールだろうか?」と感じたそうです。
この時に彼は思い出せなかったのですが、女性はオーウェンがやって来る前日まで1046号室に泊っていた客で、この日は1026号室に用事があってプレジデント・ホテルに来たと言っていました。
ただ、10階に着いてから彼女がどの部屋に行ったのかまで見ていた従業員はいませんし、本当に1026号室に行ったのか、実は1046号室に用事があったのではないかという疑いは残ります。
女性は30分ほど10階のどこかで過ごした後、ホテルのロビーに向かい、そこで男性と合流してから今度は9階に向かったとされます。
彼女がホテルを出たのは4日の午前4時15分頃で、その15分後に彼女とともに9階に向かった男性がロビーにやって来て「眠れないので散歩に行ってくる」と言って外に出て行ったそうです。
1046号室殺人事件の詳細④ 被害者の遺体発見
4日の午前7時、ホテルの電話オペレーターが1046号室にモーニングコールをかけようとして、部屋の電話の受話器が外れているという警告ランプが点灯していることに気づきます。
そこで代わりにボーイが1046号室に向かい、オーウェンを起こそうとしたのですが、部屋のドアには「Do Not Disturb」の札が掛けられていました。
ボーイがドアをノックしたところ、中から男性の声がして「入ってくるように」と言われたそうですが、ヘアのドアには鍵がかかっていて入れなかったといいます。
もう1度ドアをノックすると今度は「部屋のライトをつけろ」と言われましたが、部屋に入れない以上、電気もつけられません。
ボーイはかみ合わない会話をするオーウェンに対して「酔っているのだろう」と考え、その場を立ち去ったそうです。
そして1時間後。別のボーイが1046号室を訪れ、外から鍵を開けて室内に入ったところオーウェンは裸でベッドに横たわっていたといい、このボーイも「酔って寝ているのか」と感じて受話器を戻して部屋を出たとされます。
遺体発見
午前10時30分頃、またしても電話の受話器が外れているという警告ランプが点灯していることに気づいたボーイが1046号室に向かいました。
部屋のドアには相変わらず「Do Not Disturb」の札が掛かっており、鍵もかけられていましたが、ノックをしても返答がなかったため、ボーイは鍵をあけて室内に入ったといいます。
すると部屋の隅で頭を両腕で抱え、両膝を床についた状態で血を流しているオーウェンの姿がボーイの目に飛び込んできたのです。
慌てて部屋の電気をつけると、メインルームの壁やベッドにも大量の血液が飛び散っており、バスルームの壁も血がついていることがわかりました。
ボーイはすぐに上司に連絡して警察と病院に通報。ほどなくしてカンザスシティ総合病院の医師が到着し、まだオーウェンに息があることが確認されます。
この時のオーウェンの姿には以下のような特徴があったとされます。
・首、両手首、両足をそれぞれロープで縛られていた。
・首には絞められた痕があった。
・心臓のあたりを複数回刺されており、深い傷は肺に達していた。
・右側の頭蓋骨を骨折していた。
ロープを切りながら医師がオーウェンに何があったのか尋ねたところ、彼は「バスルームで転んで浴槽に頭を打った」と答えたそうです。
「では切り傷は?誰にやられたんだ?」とさらに医師が聞くと、「noboddy(誰でもない)」、と答え、「自殺を図ったのか?」という問いに対して「no」と答え、そのままオーウェンは意識を失いました。
その後オーウェンは病院に運ばれましたが、意識が戻ることはなく日付が変わる頃に死亡。
検死の結果、オーウェンが襲われたのは5日の午前4時から5時の間であり、電話の受話器が外れていたのは、彼が助けを求めようとしたためではないかと推察されました。
1046号室殺人事件の被害者の本名はアルテマス・オグルツリーだった
死亡後に発覚たのですが、被害者が使っていた「ローランド・T・オーウェン」という名は偽名であり、彼が住所地としていたカリフォルニア州にはそのような人物は存在しませんでした。
カンザスシティ警察はオーウェンの指紋をFBI(当時は司法省捜査局)に送り、彼の正体を洗い出そうとします。
そんななか、5日の夜にプレジデント・ホテルへ1人の女性から電話がかかってきました。女性は宿泊中のオーウェンの様子を尋ねた後、「彼の住所はカンザスシティの南東50マイルにあるクリントンだ」と告げて電話を切ったそうです。
そして6日の朝に新聞で事件が報道されると、警察や新聞社には多くの情報が集まってきました。
しかし手掛かりになる情報はなく、オーウェンの素性がわかったのは事件から1年半が経ってからでした。
バーミンガムに住むルビー・オグルツリーという女性がオーウェンの写真を新聞で見て、「これは1934年に家を出た私の息子の『アルテマス』だ」と名乗り出たのです。
奇妙なことにルビーのもとには1935年1月にアルテマス(オーウェン)から「ヨーロッパに行く」という手紙が送られてきたといい、この手紙がタイプライターで作成されたものだったことに彼女は違和感を感じていたといいます。アルテマスはタイプライターを使えなかったためです。
さらに1935年の8月にはルビーのもとに「アルテマスに救われた」と自称する人物から電話があり、「彼はカイロで大富豪の娘と結婚して幸せに暮らしている」と伝えられたそうです。
ところが警察が出入国記録を調べてもアルテマスが出国した記録は見つからず、カイロ大使館にも彼の記録はありませんでした。
そのため警察はルビーのもとにきた手紙や電話はアルテマスの生存を偽装したものだったと見なし、ローランド・T・オーウェンの正体はアルテマス・オグルツリーだったと結論付けました。
1046号室殺人事件の犯人・真相考察
1046号室殺人事件の犯人は現在も見つかっておらず、事件は未解決のままです。
偽名を使ってホテルに泊まり、身を隠すように過ごしていたこと、さらに拷問を受けたような凄惨な死に方をしていたことから、ローランド・T・オーウェンことアルテマスはマフィアで、何らかの制裁で殺害されたのではないかと考察されています。
事件が起きた1930年半ばはニューヨークでは厳しいマフィア狩りが行われており、アメリカの各地にマフィアが散らばっていた時期です。
たとえばシチリア家のマフィアには「オメルタの掟」という掟があり、これを破った者は惨殺されることもあるとされます。
アルテマスがやり取りをしていた「ドン」もマフィアや犯罪組織のボスに使われる敬称のため、ドンの指示を受けた何者かがパーティに乗じてホテルに潜入し、アルテマスを殺害したと考察されているようです。
なお、アルテマスの葬儀は身元不明のまま1935年3月に行われました。
この時に葬儀場に謎の人物から「葬儀費用を送る」という電話があり、いたずらかと思ったら20日後に本当に葬儀費用が送られてくるという奇妙な事件があったそうです。
送られてきたお金は葬儀費用としては十分すぎる額で、くわえてこの人物はアルテマスの墓前に13本のバラをお供えするように依頼もしていたといいます。
バラは本数によって花言葉が異なり、13本のバラの花言葉は「永遠の友情」。バラには「永遠に愛を-ルシール」というカードが添えられていたそうです。
もしかしたらこのバラの送り主が犯人であり、マフィアのボスから殺害を命じられて、仕方なく個人的には好ましく思っている友人のアルテマスを殺害したのではないか?とも考えられています。
1046号室殺人事件(1046号室の男)についてのまとめ
今回は1935年にアメリカで発生した未解決事件・1046号室殺人事件(1046号室の男)について紹介しました。
現在でもカンザスシティ警察は毎年、新たな証拠が入手できるたびに捜査を再開しているといいます。いつか事件の真相が明かされる日は来るのでしょうか。