ひきこさんとは子どもを引きずって夜の街を徘徊する女の怪異で、2008年に映画化もされています。
この記事では数ある都市伝説のなかでも残虐性が高いとされるひきこさんの顔や目撃情報、元ネタとなった実話があるという噂について紹介します。
この記事の目次
ひきこさんとは
ひきこさんは白いぼろぼろの服を着た女の姿をした怪異で、小学生くらいの子どもの等身大人形のようなものを引きずって、雨の夜の街を歩き回るとされています。
近づいてみると、ひきこさんが引きずっているのが人形ではなく本物の子どもであることがわかるといい、自分の姿を見た子どもを捕まえては路上を引きずりまわし、子どもがボロボロになって息絶えたところで一定の場所に連れて行く、という都市伝説とともに語られてきました。
ひきこさんと彼女にまつわる都市伝説が生まれたのは2000年代はじめ頃とされており、ネットを中心に広まっていきました。
ひきこさんの特徴
ひきこさんの行動の特徴として多く語られているのが、以下のものです。
- 足が異常に速い
- 横走りをする
- 何かを大声で喚いている
- 襲うのは小学生だけ
- 雨の日の夕方から夜にしか姿を見せない
- いじめられっ子のことは襲わない
ひきこさんの顔や容姿と名前の由来
【ひきこさん】
2000年代のインターネット上で多くの目撃情報があった、子どもの亡骸を地面に引きずりながら歩く怪人。雨の日に現れる。大人には見えず子どもにだけ見える、鏡を見せるとひきこさんが嫌がり逃げることができる、といった噂もあるらしいです。
イラスト/Moopic @Moopic pic.twitter.com/vrsTvzfvJC— 大迫力!都市伝説大百科/新刊「日本の鬼」発売 (@toshidensetu21) May 1, 2021
ひきこさんの顔と容姿には、以下のような特徴があります。
- 髪の毛が長く、腰まである
- 背が高い
- ボロボロの白い服を着ている
- 口が耳まで裂けている
- 目は吊り目
- 顔が傷だらけ
名前については子どもの腕や足を掴んで引きずって歩くことから、引く子→ひきこと名付けられたという説と、ひきこもりのアナグラムだという説の2つがあります。
一説にはひきこさんの本名(人間だった頃の名前)は「森妃姫子(もりひきこ)」であり、この本名がひきこもりを入れ替えて作った名前だと言われているのです。
「ひきこもり」という言葉は1980年末には精神医学会で提唱されていたのですが、広く知られるようになったのは1997年に雑誌『宝島』で取り上げられ、1998年に精神科医である斎藤環氏の著書『社会的ひきこもり』がベストセラーになったあたりからだと考えられています。
ひきこさんが誕生したのは2000年代頭のため、比較的新しく、認知されたばかりであった「ひきこもり」という単語を元に怪異の名前を作ったのかもしれません。
ひきこさんの都市伝説【目撃情報編】
2ちゃんねるで拡散されたひきこさんの都市伝説のなかで、もっとも有名なのが以下の「ひきこさんを目撃したことから悲劇が始まる」という内容のものです。
小学生のA君は放課後になるといつも友達のB君、C君、D君と校庭で遊んでから帰っていた。しかし、その日は午後から小雨が降り出し、空も薄暗かったため、家が遠いA君は3人とは遊ばずに1人で早く帰った。
A君の通学路の途中には大きな橋があった。いつもと同じようにA君が橋を渡ろうとすると、橋の下を流れる河川の端にある石段で何かが蠢いているのが見えた。
石段は人がギリギリ1人通れる程度の幅だ。その頃にはすっかり空も暗くなっていて視界が悪かったた。(なにかいるのだろうか?)A君は目を凝らして、石段にいるものを観察しようとした。
よく見ると、動いているのは女の人だった。しかも妙に動きが速い。
女の人は髪が長く、ボロボロの白い着物を着ていた。そしてA君と同じくらいの大きさの、人形のようなものを引きずっていた。
彼女は異様に背が高く、顔にかかった髪の毛から覗いた眼は異様に釣り上がり、口もバックリと横に裂けていた。
しかもよく見てみると、その女が引きずり回しているのは人形ではなかったのだ。彼女が引きずっていたのは、本物の、生きた小学生だった。
怖くなったA君はその場から逃げようとした。と、女がA君に気づき、何かを叫びながらすごいスピードでA君を追いかけてきたのだ。
無我夢中で逃げたA君はなんとか家にたどり着いた。しかし、その夜は恐怖でなかなか寝付くことができなかった。
翌日は雲ひとつない晴天だった。A君は昨日の出来事についてはもう気にしないことにしていた。放課後もいつものようにB君、C君、D君と4人で教室に残り、楽しく遊んだ。
遊びに夢中になっていて気づかなかったが、ふとA君が窓の外を見るといつの間にか雨が降ってきていた。時計の針も18時を指している。薄暗い窓の外を見て、A君は急に昨日の出来事を思い出した。
A君は3人に、昨日の薄気味の悪い女の話をした。しかし、みんなA君が作り話をしていると思い、まったく信じてくれない。
みながからかっていると、A君は窓の外を見て怯えきった様子で固まってしまう。心配になったB君が「A、どうしたの?大丈夫?」と話し掛けると、真っ青になったA君が窓の外を指差して叫んだ。
「あいつだ!校門にあいつがいる!!」
驚いた3人が窓に集まって外を見てみると、小雨が降るなか、女が1人で体を震わせながら立っているのが見えた。うつむいていて顔は見えないが、不気味さと異様さは3人にもはっきりと伝わった。
ふと女が4人のいる窓の方を見た。そして目が合うやいなや、大声をあげてすごいスピードで校舎に向かってきたのだ。女の走り方は独特な横走りで、普通の人間ではないことがA君以外の3人にも嫌になるほど伝わってきた。
C君は「Aがいってたことは本当だったんだよ!ヤバイよ!逃げないと!」と叫んだ。
4人は下の階に降りようとしたが、下の階にはすでに女が来ていた。階段越しに見えた女の姿はいっそう奇怪で、背が天井につくくらいの高さだった。
恐怖に震えながら4人は散り散りに逃げていった。A君は職員室、B君は教室の掃除棚、C君は理科室、D君は運良くスキをついて1階まで降りて校庭を駆け抜けて学校の外まで逃げた。
学校に残った3人はじっと身を潜めて、女が立ち去るのを待った。
しかし女は何かを探しているのか、一向に学校から出ていかない。校舎のなかには一晩中、気味の悪いわめき声とタッタッタッという女が走る足音が響いていた。
夜が明けた。朝になると女はいなくなっていた。C君は恐る恐る理科室を出て、B君が隠れた掃除棚のある教室へ向かった。
C君が掃除棚に向かって「B、俺だよ、大丈夫?」と呼びかけると、そっと棚が開き、中から疲れ切った様子のB君が出てきた。
C君の様子を見たB君は少しほっとした様子で、D君の行き先を尋ねた。
「校庭のフェンスを越えていくのが見えたよ。家のほうに走っていったし、Dは無事だと思う」
友人の無事を確認したB君は安心したようで、「じゃあ、Aは?Aはどこにいるの?」と尋ねた。するとC君の顔色は曇り、震えながらこう言ったのだ。
「Aは…連れて行かれちゃった…俺見たんだよ…廊下にあの女の気配がないことに気づいて、理科室の棚から出て、それで外を見たんだ…そしたら、あの女が凄いスピードでAを引きずって、どこかに走り去っていったんだ…」
ひきこさんの都市伝説【誕生理由・正体編】
拡散されたひきこさんの都市伝説のなかには、彼女の正体について言及したものもありました。
一番知られているのが、前述の「森妃姫子(もりひきこ)」という名前の少女が怪異になったというものです。
妃姫子さんは小学生の頃、同級生からいじめに遭っていた。いじめの理由は「名前が偉そう」「先生に気に入られていてムカつく」という理不尽なものだった。
同級生からのいじめは日に日に酷くなり、ある日、妃姫子さんはいじめっこから「ひいきのヒキコ、引いてやろうか」と言われて、髪の毛を掴まれて教室の床や廊下を引きずりまわされた。
結果、妃姫子さんは容貌が変わるほど顔中に怪我をして、それ以降怖くて学校に行かれなくなってしまった。
しかし、妃姫子さんにとって自宅も安心できる場所ではなかった。学校に行かず、1日家に閉じこもっている娘に腹を立てた妃姫子さんの親は、彼女を暴行するようになった。
家にも学校にも居場所がない妃姫子さんは、やがてカッターナイフで自傷するようになってしまう。自傷行為はどんどんエスカレートしていき、遂には自分で自分の顔をズタズタにしてしまう。自分でつけた傷で妃姫子さんの口は裂け、目尻も醜く裂けた。
そして引きこもったまま妃姫子さんは大人になった。大人になった妃姫子さんはまず両親を殺し、それから街を徘徊して自分をいじめていたのと同じ年頃の小学生を見つけては、捕まえて肉塊になるまで引きずりまわし、殺すようになった。
自分が小学生の頃にやられたように、手当り次第、小学生を引きずった。引きずりまわした後の遺体は、妃姫子さんの家に飾ってある。彼女の大切なコレクションだ。だから、被害者の遺体は誰にも見つからない。
ひきこさんが雨の日にしか姿を見せない理由は、傷だらけの自分の顔を見られたくないからだといいます。姿を見られないようにするため、傘をさしている人が多い雨の日、とくに視界が悪くなる夕方以降の時間帯に現れるのだそうです。
また、虐待を受けて満足に食事ももらえていなかったであろうひきこさんの背が異常に高いのは、彼女がヒキガエルを好んで食べていたからだとされています。
自分の部屋に引きこもるようになったひきこさんは、親からはコンビニのおにぎりを1日1つ与えられるだけだったため、いつも飢餓状態だったといいます。そのため虫やトカゲ、蛙など、自宅の敷地内で捕まえられるものは何でも食べたそうです。
なかでもお気に入りだったのが自分より醜いヒキガエルで、ヒキガエルの鳴き声がよく聞こえるからひきこさんは雨の日が好き、好物のヒキガエルを捕まえられるから雨の日に姿を見せる、という説もあります。
なお、ヒキガエルはブフォトキシンという幻覚成分を含む毒を持っているうえ、毒を蓄えている箇所を取り除くと食べられる部分が極端に少なくなることから実際には食用に向きません。有毒なうえ栄養価も低いことから、蛇や猛禽類でさえヒキガエルは食べないとされます。
妃姫子さんの母親がひきこさんになったという説もある
ひきこさんの正体は妃姫子さん本人ではなく、彼女の母親だという説もあります。
この説では妃姫子さん容姿端麗かつ優秀な少女で、母親からも虐待どころか溺愛されていました。しかし何かと注目を集める妃姫子さんのことを疎ましく思った同級生の母親によって、彼女は交通事故を装って殺害されてしまうのです。
愛する娘が殺された復讐として妃姫子さんの母親は娘の同級生たちを殺してまわり、そのうちに小学生を見ると手当たりしだいに殺害するようになってしまった。これがひきこさんの正体だといいます。
ひきこさんに遭遇した時の対処法
ひきこさんの都市伝説のなかには、彼女に遭遇した時の対処法について語られたものもあります。
- 自分の醜い顔を見たがらないため、鏡を見せると逃げる
- 逆に「引っ張るぞ!」と脅すと逃げる
ひきこさんの口が耳まで裂けているという外見、そして自分の顔の醜さを気にしている点には昭和に大流行した怪異「口裂け女」との共通点が見られます。着ているものも口裂け女が赤いロングコートなのに対し、ひきこさんは白い服(もしくは着物)と対になっています。
出典:https://when87.hatenablog.com/
また、ひきこさんも口裂け女同様に、小学生を追いかけている時に「わたし、綺麗?綺麗でしょう?」と叫んでいるとの説もありますが、口裂け女とは違い「まあまあ」や「普通」と答えても追いかけるのを辞めてくれないそうです。
ほかにも自分をいじめた子どもと同じ名前の子どもには近づかない、というものもありますが、いじめっ子の名前が不明なため対処法としては使えないでしょう。
ひきこさんの元ネタは実話?背景にある事件とは
ひきこさんには元ネタになった実話や実際になった事件があるとの噂があります。しかしひきこさんはネットで誕生した都市伝説であるため、はっきりとした元ネタが明かされているわけではありません。
ただ、ひきこさん誕生には2つ事件が影響していると考察されています。ひきこさん誕生の背後にあると指摘されている1つ目の事件が2000年1月28日に発覚した「新潟少女監禁事件」、2つ目の事件が2000年5月3日に発生した「西鉄バスジャック事件」です。
出典:https://aucview.aucfan.com/
この2つの事件はともに社会と接点を持たない引きこもりの男性と少年が起こしたもので、それまでは「家庭内の問題」として他人事であった引きこもりの存在が、世間に恐怖を与えるきっかけとなりました。
そして「引きこもり=何をしでかすかわからない犯罪者予備軍・得体のしれない怪物」という歪んだ印象を多くの人に植え付けてしまったのです。
この引きこもりに対するマイナスイメージから生まれた怪異が、罪のない子どもを殺す残忍なひきこさんだったのではないか、とも言われています。
ひきこさんを題材にした映画と映像作品
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=UcaTyeI3mjQ]
ひきこさんはこれまで何度か映像作品や映画のモチーフになっており、そのなかで一番古いものが2008年に公開された『ひきこさん』です。
この映画はひきこさんが誕生するまでの話を描いており、子どもが殺される残酷なホラー映画ではなく、いじめの描写に重点を置いたものとなっています。
ほかにも2008年には『都市伝説 ひきこ』というフル3DCGのひきこさんのアニメ映画も公開されています。
[youtube https://www.youtube.com/watch?v=7HD9cn5rz1o]
近年の作品としては2014年には生身の人間である森妃姫子が復讐劇を繰り広げるスプラッター映画『ひ・き・こ 降臨』が、2015年にはJホラー界の大御所、貞子さんと共演した『ひきこさん vs 貞子』が公開されています。
ひきこさんのまとめ
今回は2000年代初頭に流行したひきこさんの都市伝説について紹介しました。
行きあっただけの小学生を捕まえては引きずりまわして殺すという残酷さからネット上で話題となったひきこさんですが、その設定の所々に人間の持つ残虐性や暗い部分が透けて見えます。
ひきこさんの外見は、おそらく口裂け女を元にして作ったものと思われます。しかし、単に整形手術に失敗して醜くなったという口裂け女に比べ、より設定が細かく陰惨に作り込まれていることから、作り話とわかっていてもひきこさんの都市伝説は恐怖を煽り、広まっていったのでしょう。