湊かなえさんのベストセラー小説で映画化もされた「告白」に登場する「ルナシー事件」が話題です。
この記事ではルナシー事件の小説や映画の中で描かれた事件の詳細な内容や元ネタとされる実話のタリウム少女事件「母親毒殺未遂事件」の概要や類似点などについてまとめました。
この記事の目次
ルナシー事件は湊かなえの小説「告白」に登場する架空の事件
「ルナシー事件」とは、湊かなえさんのベストセラー小説「告白」(2008年単行本発行)に登場する架空の事件です。
ルナシー事件は、13歳の少女が自身の家族に様々な薬物を投与し、最終的には青酸カリを使って家族全員を殺害したというものです。
この犯人の少女は「ルナシー」というハンドルネームを名乗り、「聖なる儀式」と称して、自分の家族に様々な薬品を投与し、その症状を自身のブログに綴っていたため、「ルナシー事件」という名称で呼ばれるようになったという設定でした。
小説や映画の中のフィクションである「ルナシー事件」ですが、モデルになったのは実際の事件である「母親毒殺未遂事件」ではないかと言われいてネット上でも話題になっています。
今回はそんな「ルナシー事件」についてまとめていきます。
ルナシー事件は映画版「告白」でも描写されて話題に
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「ルナシー事件」は、「告白」が2010年に映画化された時にも描写され、これがきっかけになって話題になりました。
映画版の「告白」では、小道具としてルナシー事件を扱った週刊誌記事や新聞記事、ルナシー事件が起きた当時のニュース映像、犯人の少女が綴っていたがブログページなども作られるなど、作品中でもかなり重要なキーワードとして扱われていました。
ルナシー事件の内容① 13歳の少女が家族全員を青酸カリで殺害
続けて、「告白」の映画や小説で描かれた「ルナシー事件」の内容について紹介していきます。繰り返しますが、ルナシー事件は小説や映画「告白」の中に登場する架空の事件で実話ではありません。
ルナシー事件は、T市(映画版では埼玉県川口市)の公立中学校に通う13歳の少女が、家族の食事に青酸カリを混入させて家族5人(映画版では祖母と両親、姉の4人)を殺害した事件です。(小説世界での公式な事件名称は「T市・一家五人殺害事件」で通称「ルナシー事件」)
この13歳の少女は、様々な薬物を食事に混入させて家族に投与し続け、最終的に青酸カリを夕食のカレーに混入させて全員を殺害しました。
その後、犯人の少女が自ら110番通報をしたことで事件が発覚し、社会を震撼させる大事件へと発展しました。補導された少女が語った犯行の動機は妄想のような内容で意味不明でした。
ルナシー事件の内容② 犯人の少女は「ルナシー」を名乗りウェブに犯行内容を投稿していた
ルナシー事件の犯人の13歳の少女は、「聖なる儀式」と称して、様々な薬物を家族の夕食に混入させ、それによって現れた症状を「LUNACY IN THE NEW WORLD」という名前の自身のウェブサイトのブログページで詳しく発表していました。
この事から、この事件は通称で「ルナシー事件」と呼ばれるようになったという設定でした。
ルナシー事件の内容③ 一部の未成年の間で犯人の少女が神格化された
ルナシー事件で逮捕された少女は、犯行同期について意味不明な発言を繰り返していましたが、それがかえって少女を神格化させる事につながり、一部の同世代の若者たちによって神のように崇拝されるようになりました。
一部のマスコミもそれを面白がるようにして取り上げて散々に煽り、犯人の少女が一種のスターのように祭り上げられるという結果を生みだしました。
ルナシー事件の内容④ 主要登場人物達に深く関わる
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「ルナシー事件」は、小説「告白」の中の架空の事件で、物語に大きく関わる重要な要素でした。
「告白」は、第一章と第六章の語り手である中学校教師の「森口悠子」が、この事件について生徒に対して語るところから始まります。この部分で、森口悠子が少年犯罪に対してどのような考えを持っているのかが示されます。
そして、第五章の語り手である中学生の「渡辺修哉」は、自らの化学工作が全国大会で特別賞を受賞したものの、ちょうどその時に起きた「ルナシー事件」の影に隠れてしまい、強いショックを受けます。この経験がきっかけになって渡辺修哉はある考え方を持つようになり、これが物語全体に大きく関わっていきます。
また、第二章の語り手で、渡辺修哉の同級生の北原美月は、ルナシー事件の犯人「ルナシー」の信奉者で、ルナシーはもう1人の自分だと思っていて、腕にはルナシーをあらわした「L」のタトゥーを彫っています。また、ルナシーに憧れて彼女と同じように毒物を含む薬品を収集していました。
小説「告白」には、この「ルナシー事件」を軸にして登場人物同士の関係が語られる場面が多く重要な要素となっています。
ルナシー事件の元ネタは実話でタリウム少女「母親毒殺未遂事件」がモデルとされている
小説「告白」の中で描かれた架空の事件で実話ではない「ルナシー事件」ですが、実際にあった事件「母親毒殺未遂事件」がモデルではないかと言われています。
ルナシー事件のモデルだと言われている「母親毒殺未遂事件」は、2005年に静岡県で発生した事件で、当時16歳の少女がタリウムという毒物を使って自分の母親を殺害しようとした事から「タリウム使用母親毒殺未遂事件」とも呼ばれています。
ルナシー事件との類似点がとても多くこの事件が元ネタにされた可能性は確かに高いようです。
次の見出しから、ルナシー事件の元ネタだとされる「母親毒殺未遂事件」の概要を紹介していきます。
ルナシー事件の元ネタとされるタリウム少女「母親毒殺未遂事件」の概要と類似点
ルナシー事件の元ネタとされているタリウム少女「母親毒殺未遂事件」の概要と類似点を紹介しています。
タリウムを使って自分の母親を殺害しようとした16歳少女が逮捕
「母親毒殺未遂事件」は、2005年10月31日に、静岡県伊豆の国市の県立高校に通う少女(当時16歳)が、劇物であるタリウムを使って自分の母親を殺害しようとしたとして静岡県警に殺人未遂の疑いで逮捕された事で世間の明るみに出ました。
逮捕後に犯人の少女の精神鑑定が行われていますが、鑑定内容は非公開でした。しかしこの鑑定結果を受けて、静岡地検沼津支部は刑事処分相当の意見書を付けて犯人の少女を殺人未遂の非行事実で静岡家庭裁判所の沼津支部に送致。その後、静岡家裁は犯人の少女を医療少年院に送る保護処分を決定しています。
家庭裁判所が認定した非行事実などによると、犯人の少女は2005年の夏に、自宅近くの薬局でタリウムを購入し、8月の下旬から10月20日頃にかけて、母親に対して食事にタリウムを混ぜるなどして数回にわたって飲ませたという事です。
母親はタリウムを摂取した事で、筋力低下や呼吸障害などの症状を引き起こし、やがて意識不明の重体になっています。
犯人の少女は母親にタリウムを飲ませた動機について、「最初はタリウムを試したいと思って母親に飲ませたが、予想以上に重い症状が出て後悔した」、「犯行の発覚を恐れる気持ちから、殺害しようと思ってさらにタリウムを飲ませた」などと供述しています。
この母親については、入院後に容態が悪化して意識不明の重体に陥ったという事ですが、少女は見舞いに訪れた際にも母親の飲水にタリウムを混入させた疑いが持たれていました。
その後の母親の容態については、どういうわけか明らかにされておらず、回復したのかどうかや、後遺症などが残らなかったのかなどは不明となっています。
また、犯人の少女が母親にタリウムを投与し始めたのは8月頃でしたが、それ以前の7月頃から母親は中毒症状などを起こしていた事がわかっており、少女がそれ以前から何らかの毒性のある薬物を母親に投与していた可能性なども疑われています。(結局はっきりしないまま、続報もなくうやむやになった)
この母親毒殺未遂事件は未成年の起こした事件ということが関係してか、ある時期を境にしてパッタリと報道が止まっており多くの事がうやむやのままにされています。
タリウムを投与した母親の症状をブログで公開していた
母親毒殺未遂事件の犯人少女は、2005年6月27日に「Glmugnshu―グルムグンシュ― 岩本亮平の日記」というブログを開設し、タリウムを投与した母親の症状などを綴っていました。
このブログで、犯人の少女は男性と偽って岩本亮平を名乗り、一人称も「僕」を使っていました。
犯人の少女はこのブログで、近所の薬局でタリウムを購入した時の様子や、母親にそれを投与し、衰弱していく様子などを冷静に記録していました。
また、このブログでは、少女が英国犯罪史上最大の毒殺魔と呼ばれるグレアム・ヤングを尊敬している事や、彼の犯行について書かれたノンフィクション「グレアム・ヤング毒殺日記」を紹介する文なども書いています。
この「グレアム・ヤング毒殺日記」は実際に少女の自室にあるのが見つかっています。
ハムスターや猫、鳩、ウサギも“実験材料”にしていた
母親毒殺未遂事件の犯人の少女の逮捕後、その自宅自室からは、大量の毒物の他に、切断された猫の頭部、ウサギや鳩などの小動物をバラバラに切断して標本状にしたものが押収されています。
また、ブログでは、ハムスターにタリウムを投与して弱っていく様子も記録されており、最後にはこのハムスターを解剖した事なども記されていました。
母親の症状の変化をデジタルカメラで撮影し記録していた
母親毒殺未遂事件の犯人の少女が、タリウムを投与した母親の症状の変化を、デジタルカメラで撮影して記録していた事もわかっています。
このデジタルカメラも警察によって証拠品として押収されています。
犯人の少女は「タリウムたん」などと呼ばれネットで人気に
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母親毒殺未遂事件の犯人の少女は、事件後にネット上で「タリウムたん」などと呼ばれて、一部の人々の間で人気化しました。
ネット上では、この少女のアニメ風のイメージイラストまで作成されて、ネットアイドルのようにもてはやされました。
ルナシー事件と母親毒殺未遂事件の多数の類似点
ここまで見てきたように、「母親毒殺未遂事件」と「告白」の中で描かれた「ルナシー事件」にはいくつかの類似点が見られます。
ざっと挙げるだけでも、「犯人が未成年の少女である事。」、「被害者が犯人の家族である事。」、「毒物を食事に混ぜるという犯行方法。」、「毒物を投与した後に被害者の症状変化をブログに記録して公開している事。」、「事件後に犯人の少女が人気化している事」、「犯人が少年法で守られた事」などの多数の類似点があります。
こうした類似点の多さから、「母親毒殺未遂事件」が「ルナシー事件」のモデルだと言われています。
まとめ
今回は、湊かなえさんのベストセラー小説で映画化もされた「告白」の中に登場する架空の事件「ルナシー事件」についてまとめてみました。
ルナシー事件は、13歳の中学生少女が、家族の食事に青酸カリを混入させて全員を殺害したという事件で、犯人の少女は「ルナシー」を名乗って薬物を投与した家族の症状をブログで公開していました。
このルナシー事件は小説で描かれた架空の事件でありフィクションですが、実話が元ネタになっていると言われています。
ルナシー事件の元ネタだと見られているのが、2005年に静岡県で発生した「母親毒殺未遂事件」で、この事件は16歳の少女が、自分の母親に劇薬のタリウムを投与して殺害しようとして逮捕されたというものでした。
母親毒殺未遂事件には、「犯人が未成年」、「毒物を使って家族を殺害した(しようとした)」、「犯行後に犯人が人気化した」、「犯人は少年法で守られた」などルナシー事件との多数の類似点があり、この事件が元ネタにされたのはほぼ間違いないだろうと見られています。