市町村の「市」と聞くと、「ある程度の人口がいて、市街地がある」というイメージがありますよね。でも、北海道の歌志内市という場所は「市」のイメージからはかけ離れた「日本一小さな市」なんです。
歌志内市の概要と場所、なぜ市なのか、人口の推移やピーク時の人口、歌志内市がやばいと言われる理由や課題、合併の有無、歌志内市関連の事件・事故と出身有名人や現在をまとめました。
この記事の目次
歌志内市は日本一小さな市
出典:nikkei.com
歌志内市(うたしないし)は、北海道にある地方自治体で、全国で最も人口が少ない市です。
「人口5万人以上」が自治体(市町村)の中で「市」となるべき要件の1つですが、歌志内市は2025年2月28日時点で、人口は2,565人しかいません。
歌志内市は2024年8月時点で、全国47都道府県にある792市の中で、最も人口が少ない市であり、歌志内市は自ら「日本一小さな市」と名乗っています。
<歌志内市の概要>
・都道府県:北海道空知総合振興局
・面積:55.95平方キロメートル
・人口:2,565人
・市長:柴田一孔
歌志内市は市内を流れる石狩川の支流である「ペエンケウタシュナイ川」の音をとって、歌志内駅が開業し、その駅名から歌志内村ができて、そこから歌志内市になりました。
歌志内市の場所
歌志内市は北海道中部にあり、空知総合振興局に属しています。
芦別市、赤平市、砂川市、空知郡上砂川町に隣接していて、四方を神威岳をはじめ、夕張山地の山々に囲まれています。
歌志内市から札幌までは車で60~90分とアクセスしやすい場所にあり、それを売りにして、産業や移住者を誘致しています。
札幌圏へのアクセスを売りとした工業団地の分譲や企業誘致、既存企業による新分野開拓事業の推進が進んでいます。
歌志内市は札幌へも旭川へも比較的アクセスしやすい場所にあります。
歌志内市はなぜ市なのか?
出典:nikkei.com
歌志内市の人口は、2025年2月28日時点で2,565人です。
歌志内市はなぜ「市」なのでしょうか?「市」としては人口が2,565人というのは、あまりにも少ないですよね。
総務省の資料によると、地方自治体(市町村)の中で「市」を形成する要件には次の4つがあります。
・ 人口5万人以上
・当該市の中心の市街地を形成している区域内にある戸数が、全戸数の6割以上
・商工業その他の都市的業態に従事する者及びその者と同一世帯に属する者の数が、全人口の6割以上
・以上のほか都道府県の条例で定める都市的施設その他の都市としての要件を備えていること
繰り返しになりますが、2025年2月28日時点で歌志内市の人口は2,565人です。「人口5万人以上」の要件を満たしていません。それどころか、人口5万人の約20分の1。ちなみに、「町」となる要件は「人口5,000人以上を有すること」とありますが、「町」の要件すら歌志内市は満たしていません。
つまり、人口だけを見たら、歌志内市は「市」ではなく歌志内村になるんです。
でも、2025年3月時点で歌志内市は「町」や「市」に降格するわけではなく、「市」を維持しています。歌志内市はなぜ「市」なのかを考えていきましょう。
歌志内市はなぜ市になった?
歌志内市の人口は、ピーク時で46,000人程度。つまり、市の要件である5万人を超えたことはありません。
でも、歌志内市は1958年に「歌志内町」から「歌志内市」になり、市制施行しました。
「歌志内町」から「歌志内市」になった理由は税制優遇が1つの理由ではないかと言われています。
歌志内市になった1958年(昭和33年)は、歌志内市はすでに人口のピークを過ぎ、これからは人口減少は避けられないとわかっていた時期でした。
そのような時期に市制施行したのは、市の方が財政上で有利になるからのようです。
市制施行に伴う税制上の優遇措置が目当てだったんじゃないですかね。市になれば、普通交付税が生活保護費の分だけ増えます。
市の要件である人口5万人に近づいたけれど、これからは人口が減っていく予測ができる中で、「財政的に少しでも優遇されるならこのタイミングしかない」というタイミングで、歌志内市は誕生したと思われます。
歌志内市はなぜ市でいるのか?
歌志内市は人口約2,500人なのに、なぜ市でいることができるのか?町や村に降格しないのか?
その理由は、一度「市」になったら、人口減少などで市の要件を満たさなくなったとしても、町や村に降格しなければならないという決まりはないからです。
ただし人口要件を上回っていても市政や町政を施行するかは任意であり、また人口減少に伴って自治体が町や村に降格されることは基本的にありません。そのため、人口約52,000人の広島県府中町という町や、人口約8,600人の北海道夕張市といった市も存在します。
歌志内市は、人口が2,500人だからといって「町」や「村」になる必要はないんです。もちろん、手続きを踏めば、「歌志内市」から「歌志内町(もしくは村)」になることはできます。
しかし、過去に人口減少によって、「市」から「町」に降格した自治体はありません。
過去に北海道夕張市が人口1万人を切った時に、市から町になることを検討しましたが、町になるメリットよりも市でいるメリットの方が大きいという結論になり、夕張市は「市」で居続けることを選択しました。
夕張市が調査・検討したところ、町村になると生活保護などの業務負担が道に移管されるなどのメリットがある一方で、その分地方交付税が減らされたり、表記変更に伴う負担が発生したりするデメリットがあることが分かった。さらに市民のモチベーションに与える悪影響も懸念された。
歌志内市がなぜ市で居続けるのか?それは法的には「市」で居続けることができるし、町になるメリットよりも、市で居続けるメリットの方が大きいのだと思います。
また現在、歌志内市は「日本一小さな市」として有名になっていますので、認知度が高くなってきている「日本一小さな市」という称号を手放すのは惜しい、デメリットが大きすぎるという思惑もあるのかもしれません。
歌志内市の人口推移やピークの人口
出典:mainichi.jp
歌志内市は日本一小さな市です。
歌志内市の人口は、2025年2月28日時点で2,565人ですが、昔からここまで人口が少なかったわけではありません。
歌志内市の人口のピークや推移を見てみましょう。
・明治35年:7,148人
・明治40年:9,419人
・大正元年:11,545人
・大正5年:12,062人
・大正10年:22,102人
・昭和元年:14,220人(大正11年に赤平分村)
・昭和5年:17,137人
・昭和10年:16,299人
・昭和15年:18,253人
・昭和20年:37,832人
・昭和25年:40,954人
・昭和30年:36,621人
・昭和35年:38,002人
・昭和40年:27,744人
・昭和45年:19,334人
・昭和50年:11,778人
・昭和55年:10,178人
・昭和60年:9,612人
・平成元年:9,036人
・平成5年:7,836人
・平成10年:6,461人
・平成15年:5,799人
・平成20年:4,907人
・平成25年:4,123人
・平成30年:3,374人
・令和5年:2,739人
歌志内市の人口のピークは昭和20年代です。明治時代から徐々に人口が増加し、ピーク時の歌志内市の人口は4万人を超えましたが、そこからは人口減少の一途をたどっています。
なぜ、このような人口推移になったのか?それは「炭鉱」です。
歌志内市には北海道でも有数の炭鉱があり、戦中・戦後にかけて、石炭の需要が高まったことに伴い、歌志内市にある炭鉱(北炭空知砿・空知炭砿・住友新歌志内砿・幸袋炭砿・住友上歌志内砿など)で働く労働者とその家族が移住してきて、一大炭鉱都市を形成しました。
しかし、昭和40年代に入ると、石炭産業が不振になり、炭鉱の閉山が相次ぎます。すると、炭鉱で働いていた労働者とその家族は歌志内市を離れることになり、人口は徐々に減っていったのです。
平成7年には歌志内市最後の炭鉱「空知炭鉱閉山」が閉山になり、人口減少に拍車がかかっています。
歌志内市はやばい?課題山積み
歌志内市はやばいと言われています。
歌志内市がやばいと言われる理由は、次の4つがあります。
・限界自治体になっている
・人口減少は続く
・産業ない
・生活サービスがない
限界自治体になっている
出典:nhk.or.jp
歌志内市は「限界自治体」になっています。
限界自治体とは、65歳以上の高齢者が人口の50%以上を占めている自治体のことです。
歌志内市の人口は2,565人ですが、65歳以上の人口は1,412人です。高齢者が占める割合は、55.05%です。
人口 2,565人(性別内訳 男1,224人 女1,341人)
65歳以上人口 1,412人(全人口に占める割合 55.05%)
世帯数 1,605世帯
引用:人口 | 北海道歌志内市
世帯数を見ると、独居世帯が多いこともわかります。
高齢者が多いということは、それだけ税収が少ない。しかも、将来的に人口が増える見込みがないことになります。
人口減少は続く
歌志内市のやばい課題の2つ目は、人口減少です。
これは限界自治体ともつながる課題ですが、歌志内市は人口減少が止まりません。ここ10年の人口推移を見てみましょう。
・2015年:3,783人
・2016年:3,627人
・2017年:3,489人
・2018年:3,374人
・2019年:3,232人
・2020年:3,092人
・2021年:2,994人
・2022年:2,865人
・2023年:2,789人
10年間、一度も人口が増えていません。人口が減り続けています。
このままのペースで減り続けると、2028年には人口2,000人を切ってしまう。そして、この人口減少率が続けば、歌志内市の人口はあと30年後にはゼロになる。むしろ、65歳以上の高齢者が多いので、30年よりも早く、歌志内市の人口はゼロになる可能性もあります。
「日本一小さな市」ではなく、「人口がいない市」になりかねないほど、歌志内市の人口減少はやばい状態なんです。
2024年時点で、日本全国で人口5,000人を切る唯一の市であり、北海道内には「村」なのに、歌志内市の人口を上回っている自治体が4つ(中札内村、更別村、新篠津村、猿払村)もあります。
歌志内市は「日本一小さな市」として、人口が少ないことをアピールしていますが、このまま人口減少が続けば、シャレにならない状態になってしまいます。
産業がない
出典:hre-net.com
歌志内市がやばいのは産業がないことです。
歌志内市といえば炭鉱の町ですが、現代では石炭は需要が低く、炭鉱はすでに閉鎖されています。
炭鉱が閉山した現在、歌志内市には産業がほとんどありません。温泉やスキー場など観光開発は行われていますが、2019年には運営会社が破産し、別会社に経営者が変わる(無償譲渡)など、経営は思わしくないようです。
さらに、歌志内市では農業はほぼ行われていません。令和5年のデータによると、歌志内市の農家は1戸しかありません。そのため、農協もないんです。
歌志内市は産業がほとんどないので、移住者を募集しても、なかなか人が集まらないのでしょう。仕事がなければ、生活していけませんから。
行政サービスがない
歌志内市は人口が減り続け、人口の50%以上が高齢者であり、産業もほとんどありません。この状況だと若者世代はいなくなり、歌志内市の税収も減っていきます。そうすると、人間が生活する上で必要な生活サービス・行政サービスがなくなるんです。
例えば、歌志内市には高校がありません。2007年に唯一の市内の高校だった北海道歌志内高校が閉校になりました。また、2021年には歌志内小学校と中学校が統合して、「義務教育学校」として歌志内学園が開校しました。「開校」と言えば、聞こえは良いですが、結局は子供が少ないので、小学校と中学校を統合せざるを得なかったということですよね。
医療施設は市立病院と歯科クリニックが1ヶ所ずつしかありません。
必須の生活サービスがなくなれば、人口減少は加速する。人口減少が加速すれば、生活サービスはさらに少なくなる。という悪循環に陥いるので、かなりヤバい状態になりますよね。
歌志内市は合併しないの?
歌志内市は、人口が約2,500人しかいませんが、周辺の市町村と合併しないのでしょうか?
過去には歌志内市や周辺の砂川市など中空知地区で広域合併を目指していましたが、失敗に終わっています。
歌志内市は、中空知地区の広域合併を目指し、四市二町が参加した「中空知地域合併協議会」に参加していたモノの、合併後の財政状態を悲観した砂川市が離脱し、「中空知地域合併協議会」は解散に追い込まれました。
この合併計画は2006年のヤミ起債問題が起因で、歌志内市が孤立して、合併話は立ち消えになったようです。一度、このように合併計画が立ち消えになったら、なかなか「また合併しよう」というわけにはいきませんよね。
歌志内市関連の事件・事故
歌志内市関連の事件や事故を紹介していきます。
過去のガス爆発事故
出典:facebook.com
歌志内市といえば、炭鉱の町ですよね。
炭鉱の町では、ガス爆発が起こるリスクがありますが、歌志内市の炭鉱でも何度か起こっています。
・1929年8月5日:住友坂炭鉱でガス爆発事故(70人死亡)
・1940年2月14日:歌志内炭鉱でガス爆発事故(24人死亡)
・1959年2月21日:歌志内炭鉱でガス爆発事故(14人死亡)
・1959年5月9日:歌志内炭鉱でメタンガス噴出事故(5人死亡)
石炭が含まれる炭層にはメタンガスが溜まっていることが多く、そのメタンガスに引火して炭鉱でガス爆発が起こることがあります。
連続放火事件
歌志内市では、2007年から2008年にかけて、放火と見られる火災が少なくとも7件発生したことがありました。
この連続放火事件では、逃げ遅れたと見られる高齢女性が1人亡くなっています。
2007年(平成19年)12月15日午前1時25分ごろ、北海道歌志内市神威の高橋レイ子さん(72)方から出火し、木造平屋建てが全焼し、焼け跡から高橋さんの遺体が発見された。
高橋さんは独り暮らしだった。
また、「氷点」や「塩狩峠」などで知られる作家の三浦綾子さんが、1939年に女学校を卒業した後に1946年まで歌志内市で教員をしていた時に間借りしていた星野呉服店も全焼しています。
砂川市一家5人死傷事故
出典:mainichi.jp
2015年6月6日に歌志内市に隣接する砂川市で起こった砂川市一家5人死傷事故も、歌川市内に関係しています。
砂川市一家5人死傷事故は飲酒運転をした2人が暴走レースを行い、歌川市内に住む母親の家から帰る途中の一家5人が乗る軽ワゴンに衝突しました。
軽ワゴンは約60mも飛ばされて炎上し、父親と母親は即死、長女は車外に投げ出されて車体の一部が突き刺さり即死。同じく車外に投げ出された長男は生きたまま衝突した車に巻き込まれて、1.5キロも引きずられて死亡。次女は生き残った者の、脳に重い障害を負っています。
この事故では飲酒&暴走運転をしていた2人に懲役23年の実刑判決が言い渡されています。
猫関連の暴行事件
出典:fnn.jp
2025年2月には歌志内市で、飼い猫を巡る事件が起こりました。
60代の姉と50代の弟が2人で暮らして猫を飼っていましたが、姉が「面倒を見きれないから、他人に譲ろう」と提案したら、弟が激昂して、姉に暴行を加えました。
60代の姉の両肩をつかみ、髪を引っ張っる暴行を加えた54歳の弟が逮捕されました。
暴行の現行犯で逮捕されたのは、北海道歌志内市に住む無職の男(54)です。
引用:飼いネコ「面倒を見きれないから譲ろう」同居姉(60代)に言われて激高し髪の毛引っ張る暴行 逮捕の弟(54)は「やってない」容疑否認 北海道歌志内市
弟はペットの猫が大好きで、思わず姉に暴行を加えてしまったのでしょうか。
歌志内市出身の有名人
出典:jisin.jp
歌志内市は、現在の人口が約2,500人程度の日本一小さな市ですが、歌志内市出身の芸能人・有名人はいます。
■佐分利信(俳優)
松竹三羽烏の1人で「家族会議」や「化石」、「華麗なる一族」などの代表作がある
■笹崎僙(プロボクサー)
「槍の笹崎」という異名を持つ。笹崎ボクシングジムの初代会長
■高橋揆一郎(芥川賞作家)
『伸予』で芥川賞を受賞。炭鉱や炭鉱労働者を舞台とした自伝的小説が多い。歌志内市名誉市民。
■正司歌江(かしまし娘)
漫才トリオのかしまし娘の長女。2009年からWAHAHA本舗に正式入団
■秋庭豊とアローナイツ(ムードコーラス)
炭鉱夫として働きながらバンド活動をしていた。『中の島ブルース』でメジャーデビュー。
■石井智也(アルペンスキー選手)
平昌オリンピックのアルペンスキー選手
■佐々木富雄(アルペンスキー選手)
1968年の冬季オリンピックに出場したアルペンスキー選手
■nonzoc(歌手)
「Re:ゼロから始める異世界生活 Memory Snow」で、イメージソングとEDテーマに抜擢された歌手
■工藤万砂美(政治家、参議院議員)
1983年の参議院議員選挙で自民党から立候補して当選。
人口は少なくても、芸能人・有名人を輩出しているんですね。
歌志内市の現在
移住支援政策が進む
歌志内市では、人口を増やすためのいろいろな施策が行われています。
・こども園の保育料無料
・こどもの医療費無料
・修学旅行費全額負担
・高校3年間1万5000円支給
そのほか、移住・定住を促すために、市有地を一般住宅用地として格安で分譲し、住宅建設費を補助するなどの施策を行っていて、何とか人口を増やそうと試みています。
スイス風の景観づくりがすごい
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歌志内市は現在、スイス風の景観づくりを進めています。
当市では、スイスランドの自然豊かな景観をイメージさせるような、かもい岳山麓の観光開発をすすめようと、「トレーニングキャンプ歌志内スイスランド計画」に基づき、スイス風の建築デザインを取り入れた、かもい岳センターハウス(ロッジ)を建設しました。
スイス風の建築を進めているのは、次のような公共施設です。
・文珠高台団地公営住宅
・道の駅うたしないチロルの湯
・かもい岳温泉
・郷土館ゆめつむぎ
・かもい岳センターハウス
・チロル団地(単身者向け)
・養護老人ホーム楽生園
・チロルの湯
歌志内市は「スイスランド」をテーマにしているようですが、歌志内市にある「チロル(団地や湯)」はスイスではないというツッコミが入っています。
まぁ、このような感じが「日本の地方自治体」という感じかもしれません。
歌志内市のまとめ
歌志内市の概要や場所、人口の推移やピーク、なぜ市なのか、やばい理由や課題、合併の噂、事件や有名人と現在をまとめました。
日本全体で人口減少が進んでいますので、今後、歌志内市は人口が減っていくことは避けられないでしょう。