前を横切ると不吉、という迷信が広く知られている黒猫。しかし黒猫は幸運を運ぶという真逆の説もあります。
この記事では日本や海外での黒猫にまつわる都市伝説と、黒猫が不吉とされる理由やなぜ幸運を運ぶと言われるのか、その由来についてまとめていきます。
この記事の目次
黒猫の特徴や性格
黒猫は体中の毛がすべて黒一色の猫です。猫の毛の色は、主に白、黒、茶の三色の組み合わせからできており、1本の毛のなかでも根本と先端は黒い色だけれど中間は茶色、といったように色が組み合わさっていることがあります。
しかし黒猫は1本1本の毛も根本から先端まですべて黒色で、それゆえ体全体が真っ黒に見えるのです。黒猫の毛を観察すると、メラニン色素によってすべて真っ黒なことがわかります。
また黒猫は皮膚にも黒い色素が作られるため、肉球も黒であることが多いです。
なかには子猫のときに茶色い毛が混ざっていたり、黒色の毛に濃淡がついて縞模様が見られたりしても、成長とともに体毛が真っ黒な黒猫になる個体もいます。これは子猫の時期には色素の出現がまだ不十分であるためだと考えられています。
黒猫は毛の模様で個体の判断ができないため、野良猫の保護活動などをしている人は耳の形や尻尾の長さ、眼の色や体格などで個体を見分けるといいます。
なお、黒猫の体毛は黒一色ですが眼の色はグリーン、ヘーゼル、ゴールドなどの個体差があります。
黒猫の性格
一見すると近寄りがたい、野性的な印象のある黒猫ですが、性格はおっとりしていて人懐こく、賢い子が多いようです。
もともと自然界では黒や茶色などの自然に溶け込みやすい体色を持っている動物は外敵から見つかりにくく、また獲物に近づいてもバレづらいため、同じ種類でも白一色の個体より温厚な傾向があるといいます。
そのため猫も、個体差はあるものの黒猫やサビ猫など暗い体色を持つ個体にはのんびりした性格の子が多いのでしょう。
黒猫しかいない珍しい猫種・ボンベイも、犬のように快活で甘えん坊、そして賢く愛情深い性格だとされます。
黒猫は不吉?黒猫の都市伝説の由来
黒猫にまつわる都市伝説や言い伝えのなかで、もっとも有名なのが「黒猫が目の前を横切るのは不吉、凶兆」というものでしょう。
このような都市伝説が生まれた背景には、15世紀から18世紀にヨーロッパで盛んになった魔女狩りがあります。
この頃のヨーロッパででは猫そのものが忌み嫌われており、とくに夜の闇を思わせる体毛を持つ黒猫は不幸の象徴とされていました。
そのために迫害の対象になった「魔女」の濡れ衣を着せられた人と黒猫はセットで扱われるようになり、黒猫は魔女の使い、黒猫を飼っている人間は老若男女問わず魔女といった理不尽な扱いを受けるようになったのです。
黒猫はなぜ迫害されたのか?理由の考察
そもそも、どうして猫そのものがヨーロッパで不吉の象徴とされた時代があったのでしょう。これについてはさまざまな考察がされていますが、そのうちの一つに「キリスト教の思想が他の宗教の存在を認めなかったから」という説があります。
エジプトでは紀元前から猫の頭を持つ女神・バステトを信仰していました。バステトはエジプト神話で太陽神ラーの目として人間を罰する役目を持つとされたほか、「王の乳母」として多産の象徴ともされてきました。
そしてバステト信仰はギリシャにも伝わり、バステトと同じく人間を罰し、子供を守るとされる女神アルテミスと融合するようになりました。
アルテミスはローマ神話におけるディアーナに相当し、ディアーナは10世紀のキリスト教の法規書で、すでに「魔女が信仰する邪神」という扱いをされていたといいます。中世のヨーロッパでは異教の神であるディアーナに連れられた女たちが、野獣に乗って行進する話なども伝えられていました。
バステト信仰では猫はバステトと同じく神聖な生き物とされていたため、ディアーナ信仰でも集会に猫を取り入れるようになったとされます。
ディアーナを信仰している信者たちが猫を連れて森や洞窟などに集まって集会をしている様子は、一気にキリスト教圏を拡大しようとしていた協会側からすると目障りな存在だったのでしょう。
ディアーナを信仰する者は弾圧されるようになり、それとともに猫も邪悪な動物として扱われるようになっていったのです。とくに悪魔をイメージさせる真っ黒な見た目のうえ、バステトを連想させる黒猫は「邪悪な力を宿している」「魔女が化けたもの」として、激しい迫害を受けました。
この当時の黒猫に対する理不尽な言いがかりや印象操作が「黒猫は不吉」という都市伝説になって、後世にまで伝わったと考えられているのです。
黒猫は日本では幸運のシンボル
ヨーロッパでは不吉とされた黒猫ですが、日本では縁起の良い「福猫」として好意的な扱いをされてきました。黒猫は夜目が利くことから、魔除けや幸運のシンボルと考えられてきたのです。
そのため日本では黒い招き猫も作られており、厄除けや魔除けを祈願して飾られてきました。寺社仏閣に由来がある日本最古の招き猫は、京都にある檀王法林寺で「主夜神尊招福猫」として作られたものなのですが、不思議な神通力を持つとされたこの招き猫も黒猫だったほどです。
現存するもののなかでは最古の天皇の日記である『宇多天皇御記』のなかでも、宇多天皇が黒猫を愛でていたことが綴られており、貴重なものとして黒猫が扱われていた様子がうかがえます。
また江戸時代には黒猫(当時は烏猫と呼ばれていた)を飼うと、結核が治癒する、恋煩いがよくなるという迷信もあったそうです。
江戸時代の川柳にも黒猫は登場しており、とくに「青白い娘のそばに黒い猫」という歌が知られています。
諸説ありますが、結核で命を落とした沖田総司も願掛けで猫を飼っていたとも言われています。
ほかにも黒猫はその毛色から庶民の間で「あんこ猫」とも呼ばれており、おめでたい席でしか食べられない縁起の良い食べ物、あんこに似ているため幸運を運ぶと信じられていました。
出典:https://product.rakuten.co.jp/
また夏目小説の代表作『吾輩は猫である』の語り手である名前のない猫も、漱石自身が飼っていたという黒猫をモデルにしていました。そして、この黒猫のことは漱石の妻も福猫として可愛がっていたそうです。
もともと日本では蚕を食べるネズミを追い払ってくれるという理由で、養蚕が盛んだった地域を中心に猫は守り神として祀られる存在でした。猫神信仰もあったほどです。
そのため西洋の文化が流入し、民間に浸透するまでは黒猫を不吉なものとする迷信もなかったのでしょう。詳しい時期は定かではありませんが、日本国内で黒猫が不吉だという迷信が流行りだしたのは1970年頃からではないかともされています。
ヤマト運輸が1957年以来のロゴ変えちゃうらしいけど、変えるならもっと前に使ってやつに戻して欲しかったなぁ。 #ヤマト運輸 #クロネコヤマト pic.twitter.com/VBvdvZYGrY
— Steve Kasuya (@SteveKasuya2) March 1, 2021
なお、ヤマト運輸のロゴマークも子猫を咥えて運ぶ母猫がデザインされたものですが、このマークが誕生したのは1957年のことだそうです。
黒猫のロゴは、ヤマト運輸が業務提携しているアメリカのアライド・ヴァン・ラインズ社のロゴマークをヒントにして誕生したといいます。
アライド・ヴァン・ラインズ社のロゴマークは白猫の親子のものなのですが、これを当時のヤマト運輸の社長がいたく気に入り、許可をとったうえで同じ猫の親子をモチーフにしたロゴマークを考案したのです。
遠目にもはっきりと目立つヤマト運輸の黒猫のマークですが、1957年当時に「黒猫は不吉」という迷信が日本で知れ渡っていたら採用されていなかった可能性もありますし、黒猫ではなく三毛猫やトラ猫がデザインされていたかもしれません。
黒猫にまつわる海外の迷信
黒猫にまつわる海外の迷信、都市伝説のなかには「黒猫は不吉だ」というものと、日本のように「黒猫は縁起が良い」というものの二種類があります。
黒猫は縁起が悪いという迷信がある国は、以下のとおりです。
アイルランド
月夜に目の前を黒猫が横切ると、伝染病にかかって死ぬ
イタリア
病に臥せている人の枕元に黒猫が来ると、死期が近い
ドイツ
クリスマスの晩に黒猫の夢を見ると、次の年に重い病気にかかって苦しむ
反対に黒猫は縁起が良いという迷信がある国は、以下のとおりです。
イングランド
黒猫が家に来たり、住み着いたりすると猫と一緒に幸運が訪れる
スコットランド
野良の黒猫を見たら金運がアップする
南フランス
黒猫に優しくすると幸運がもたらされる
「クリスマスに黒猫の夢を見るのは不吉」とされていたドイツでは昔は白猫のぬいぐるみやオーナメントをクリスマスの時期に飾り付けていました。
反対に「黒猫は家に幸福を運ぶ」と信じられてきたイングランドでは、結婚祝いとして黒猫をモチーフにしたものを贈る習わしがあるといいます。仲睦まじく、子宝に恵まれるようにという意味合いがあるそうです。
黒猫を大切に!黒猫感謝の日がある国も
アメリカでは8月17日を「黒猫感謝の日」としています。猫好きの間では人気が高い黒猫ですが、不吉な迷信のせいでイメージがよくなく、他の毛色の猫に比べて保護施設での引取頭数も少ないのだといいます。
また「写真を撮ってもSNS映えしない」「可愛い写真が撮れない」という理由から、黒猫を飼いたがらない人が増えているともされます。
アメリカの「黒猫感謝の日」は、そのような不遇な扱いを受けている黒猫の素晴らしさを大勢の人に知ってほしい、という願いから作られた記念日です。
ほかにもイタリアでは11月17日を「Gatto Nero Day(黒猫の日)」、イギリスでは10月27日を「National Black Cat Day(全英猫の日)」としています。
イタリアでは現在でも「黒猫は悪魔の使い」と根深く信じている人が少なからず存在し、黒猫を殺害する市民までいるとされます。
2006年には一年間で殺害された黒猫の数がなんと推定6万匹にまで上っており、2007年からは動物愛護団体のAIDAAが黒猫の日を作って保護活動に乗り出したのです。
AIDAAによるとイタリアでは単純に黒猫を忌み嫌っている者、悪魔崇拝のカルト儀式に黒猫を用いるために捕まえて殺している者、そして手袋の内布や首輪などに用いる毛皮用に黒猫を捕獲する団体が入り混じって黒猫を狙っているため、黒猫虐待問題は根が深いのだそうです。
Oggi la Giornata Nazionale del gatto nero. Non sono loro a portar sfiga, ma chi lo pensa #gattoneroday buongiorno pic.twitter.com/zZaajmjIJ4
— serena (@serenamia5) November 17, 2020
なお、イタリアでは古くから黒猫同様に「17」という数字も、縁起が悪いものとして知られています。イタリアの空港会社のなかには客席に17列を設けず、欠番にしている会社もあるほどです。
あえて忌み数とされている17を、同じく忌まわしい存在と信じられてきた黒猫の日として採用しているところにも、「根拠のない迷信に振り回されるのはやめよう」というAIDAAのメッセージが込められているのでしょう。
ほかにもベルギーのイーペルという都市では、毎年「猫祭り」という猫の仮装をして楽しむ賑やかなお祭りが開かれているのですが、こちらも黒猫にまつわる悲しい歴史が由来となっています。
ベルギーはヨーロッパのなかでもとくに魔女狩りが盛んにおこなわれていた国で、イーペルでは1817年まで、生きた黒猫を衣料会館の鐘楼から落として殺す「猫の水曜日」という残酷極まりない行事が、年に一度の頻度でおこなわれていました。
この時に犠牲になった黒猫への供養として、1938年から「猫祭り」がおこなわれるようになりました。
黒猫についてのまとめ
この記事では黒猫にまつわる都市伝説や迷信、不吉とされる理由や日本と海外の黒猫の扱いの違いについて紹介しました。
宗教そのものに関心が薄い国民性のためか、不吉という迷信が知れ渡るようになった後でも、日本では黒猫に対してマイナスの印象を持つ人はそれほどいなかったようです。
現在では日本を含む多くの国で黒猫は愛され、幸運をもたらす象徴とされています。もし目の前を黒猫が横切ることがあっても、不吉だと思わずに優しく見守ってあげましょう。良いことがあるかもしれません。